「遺言書を残しておいた方がよいと聞くけれど、何をどう書けばよいのか分からない」という声は少なくありません。遺言書は、のこされたご家族が相続で迷ったり争ったりしないための大切な備えです。ただし、書き方の決まりを守らないと、せっかくの遺言が無効になってしまうこともあります。このページでは、遺言書の基本から、自筆証書遺言と公正証書遺言の違い、費用の目安、よくある失敗までを、はじめての方にも分かりやすく整理しました。制度の細かな点は変わることもあるため、最終的には公証役場や法務局、専門家にご確認いただくことをおすすめします。
遺言書とは(何ができるのか)
遺言書とは、自分が亡くなったあとに、財産を誰にどのように引き継いでほしいかなどの意思を、法律で定められた方式にしたがって書き残す書面です。現行制度では、遺言書に法的な効力が認められており、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)よりも、原則として遺言の内容が優先されるとされています。
遺言書がとくに役立つのは、相続人が複数いる場合や、法定相続分とは異なる分け方をしたい場合、あるいは相続人以外にも財産を渡したい場合などです。たとえば「自宅は同居している子に」「預貯金は配偶者に」といった希望があるときも、遺言書があれば意思を明確に伝えられます。反対に、何も残しておかないと、のこされたご家族が話し合い(遺産分割協議)で分け方を決めることになり、意見が合わずに時間や労力がかかってしまうこともあります。
遺言書でできる主なことには、次のようなものがあります。
- 誰にどの財産を相続させるかを指定する(不動産・預貯金・株式など)
- 相続人以外の人やお世話になった方へ財産を贈る(遺贈)
- 相続手続きを進める人(遺言執行者)を決めておく
- 子の認知など、身分に関することを定める
エンディングノートとの違い=法的効力の有無
よく似たものにエンディングノートがありますが、両者は役割が異なります。エンディングノートは、自分の思いや希望、連絡先、医療・介護の希望などを自由に書き留めておくもので、書き方に決まりはない一方、法的な効力はありません。これに対して遺言書は、方式を守って作成すれば法的効力を持ちます。財産の分け方をきちんと決めておきたい場合は遺言書、思いや情報を幅広く残したい場合はエンディングノートと、目的に応じて使い分けると分かりやすいでしょう。エンディングノートについては、エンディングノートの書き方もあわせてご覧ください。
遺言書の種類(自筆証書・公正証書・秘密証書)
一般的に利用される遺言書には、主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。それぞれに特徴があり、手軽さ・確実性・費用のバランスが異なります。まずは全体像を比較表で確認してみましょう。
| 種類 | 作成方法 | 費用の目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 本人が全文を自書(財産目録はPC等も可) | ほぼ無料(保管制度利用時は手数料) | 手軽だが方式不備で無効になる恐れ |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成・証人2人が立会い | 財産額に応じた公証人手数料 | 方式不備が起きにくく確実性が高い |
| 秘密証書遺言 | 内容を秘密にして公証役場で存在を証明 | 公証人手数料(定額程度) | 内容を秘密にできるが利用は多くない |
実際によく使われているのは、手軽な「自筆証書遺言」と、確実性の高い「公正証書遺言」の2つです。以下ではこの2つを中心に、書き方や作り方を見ていきます。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言は、自分ひとりで手軽に作成できるのが大きな利点です。ただし、法律で定められた方式を守る必要があり、ひとつでも欠けると無効になってしまう恐れがあります。現行制度では、次の点が基本とされています。
- 全文を自分で書く(自書)のが原則です。本文をパソコンで作成したり、他人に代筆してもらったものは認められません。
- 財産目録はパソコン作成や通帳のコピー添付も可とされています。その場合は、各ページに署名押印が必要です。
- 作成した日付を正確に記載します。「令和〇年〇月〇日」のように特定できる形で書きます。
- 署名と押印をします。印鑑は実印でなくても差し支えないとされていますが、実印が望ましいという考え方もあります。
書き方の一例としては、冒頭に「遺言書」と表題を書き、本文で「誰に」「どの財産を」「相続させる(または遺贈する)」を具体的に記します。不動産であれば登記事項証明書のとおりに、預貯金であれば金融機関名・支店名・口座の種類などを、あとから特定できる形で書いておくと安心です。最後に日付・氏名を自書し、押印して仕上げます。書き上げたあとは、封筒に入れて保管場所を家族に伝えておくか、次に紹介する保管制度を利用するとよいでしょう。
法務局の保管制度も活用できます
自筆証書遺言は、自宅で保管すると紛失や改ざん、発見されないといった心配があります。これを補う仕組みとして、法務局が遺言書を預かる「自筆証書遺言書保管制度」があります。この制度を利用すると、原本が法務局で保管されるほか、家庭裁判所での検認が不要になるといった利点があるとされています。利用の要件や手数料、必要な様式については、あらかじめ法務局に確認しておくと安心です。
公正証書遺言の作り方
公正証書遺言は、公証役場で公証人が関与して作成する遺言書です。方式の不備で無効になりにくく、原本が公証役場に保管されるため、確実性を重視する方に向いているとされています。一般的な流れは次のとおりです。
- 遺言の内容(誰に何を渡すか)をあらかじめ整理する
- 必要書類をそろえ、公証役場に相談・打ち合わせをする
- 証人2人の立会いのもと、公証人が遺言者の意思を確認しながら作成する
- 内容を確認し、遺言者・証人・公証人が署名押印して完成
必要書類は、遺言者の本人確認書類や印鑑登録証明書、財産に関する資料(不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書、預貯金の通帳など)が一般的です。証人は、推定相続人など一定の関係者はなれないとされているため、誰に依頼するか事前に考えておく必要があります。証人が見つからない場合は、公証役場で紹介してもらえることもあります。必要書類は状況によって異なるため、詳しくは公証役場に確認してください。
公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が関与するため、内容の面でも相談しながら作成できるのが安心な点です。体調などの事情で公証役場へ出向くのが難しい場合には、公証人に出張してもらえる仕組みもあるとされています。準備には打ち合わせの時間もかかるため、余裕をもって相談を始めるとよいでしょう。
費用の目安
遺言書にかかる費用は、種類によって大きく異なります。あくまで目安ですが、次のように考えておくとよいでしょう。
- 自筆証書遺言:紙とペン、印鑑があれば作成でき、基本的にほぼ無料です。法務局の保管制度を利用する場合は、別途保管の手数料がかかります。
- 公正証書遺言:財産の額や渡す相手の人数に応じて、公証人手数料がかかります。財産が多いほど手数料も高くなる仕組みとされています。
公正証書遺言の手数料は、法令で定められた基準にもとづいて計算されます。財産の評価額によって変わるため、正確な金額は財産の内容が固まってから公証役場に見積もりを依頼するのが確実です。ここで示した金額感はあくまで目安であり、実際の費用は個々の状況によって異なる点にご注意ください。相続財産がどの程度になりそうかを大まかに把握したい場合は、相続税の対象になりそうかどうかも意識しておくと、遺言の内容を考える際の参考になります。
なお、遺言の内容を考えるうえでは、ご自身の財産全体をおおまかに把握しておくことも大切です。相続税がかかりそうかどうかの見当をつけたい場合は、相続税ざっくり計算機のような簡易ツールで試算してみると、分け方を検討する際の参考になります。あくまで目安として活用し、正確な判断は専門家にご相談ください。
遺言書でよくある失敗・無効になるケース
せっかく遺言書を書いても、方式の不備や内容のあいまいさによって、効力が認められなかったり、かえって争いのもとになったりすることがあります。とくに自筆証書遺言では、次のような点に注意が必要とされています。
- 日付の不備:日付が書かれていない、「〇年〇月吉日」のように日を特定できない書き方は無効となる恐れがあります。
- 訂正方法の誤り:書き間違いの訂正には法律で決められた方法があり、正しく直さないと訂正が認められないことがあります。大きな修正は書き直す方が安全です。
- あいまいな表現:「財産は家族で仲よく分けて」など具体性を欠く書き方だと、かえって解釈で揉める原因になりかねません。
- 遺留分への配慮不足:特定の人に極端に偏った内容にすると、他の相続人の遺留分をめぐるトラブルにつながることがあります。
遺留分への配慮
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている、最低限の取り分のことです。現行制度では、配偶者や子などには遺留分が認められているとされています。遺言で財産を特定の人に集中させること自体は可能ですが、他の相続人の遺留分を侵害する内容だと、あとから遺留分に相当する金銭の請求(遺留分侵害額請求)を受ける可能性があります。争いを避けるためには、遺留分にも配慮した内容にしておくこと、そして「なぜそのように分けたのか」という思いを付言事項として残しておくことが、円満な相続につながりやすいと言われています。遺留分の計算は財産の評価や生前贈与の有無などで複雑になりやすいため、判断に迷う場合は弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q. 遺言書は何歳から書けますか?
現行制度では、満15歳以上であれば遺言をすることができるとされています。年齢の上限はありません。ご自身の意思をはっきり示せるうちに、早めに準備しておくと安心です。
Q. 一度書いた遺言書は書き直せますか?
はい、遺言書はいつでも書き直しや撤回ができます。内容が異なる新しい遺言書を作成した場合、原則として日付の新しいものが優先されるとされています。状況の変化に応じて、見直していくとよいでしょう。
Q. 自筆証書遺言と公正証書遺言はどちらがよいですか?
手軽さを重視するなら自筆証書遺言、確実性を重視するなら公正証書遺言が向いているとされています。財産が多い場合や相続人が複数で複雑な場合は、無効になりにくい公正証書遺言を選ぶ方が安心という考え方もあります。
Q. 遺言書が見つからないと無効になりますか?
遺言書は、発見されなければ内容を実現できません。自宅保管はこの点が弱点になります。法務局の保管制度や公正証書遺言を利用すると、所在が明確になり、発見されないという心配を減らせるとされています。
Q. 遺言書に決まった用紙はありますか?
自筆証書遺言そのものに決まった用紙はありません。ただし、法務局の保管制度を利用する場合は、余白などの様式が定められています。利用を検討する場合は、事前に法務局の様式を確認しておきましょう。
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まとめ
遺言書は、のこされたご家族が安心して相続を進めるための、思いやりのある備えです。手軽に始めたい方は自筆証書遺言、確実性を重視したい方は公正証書遺言と、ご自身の状況に合わせて選ぶとよいでしょう。いずれの場合も、日付・署名押印などの方式を守ること、内容を具体的に書くこと、そして遺留分にも配慮することが大切です。まずはご自身の財産や家族関係を整理するところから始めてみてください。終活全体の進め方については終活は何から始めればよいかも参考になります。制度の細かな点や個別の判断については、公証役場・法務局・専門家に確認しながら進めていくと安心です。
遺言書は「まだ早い」と思っているうちに、書けないままになってしまうことも少なくありません。元気なうちに一度作っておき、家族構成や財産に変化があったときに見直していく、という進め方が現実的です。完璧を目指しすぎず、まずは書けるところから始めてみることが、のこされたご家族への何よりの思いやりになるでしょう。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、法的助言ではありません。制度の内容は改正されることがあります。実際の手続きや個別のご判断にあたっては、公証役場・法務局・弁護士・司法書士などの専門家にご確認ください。
