成年後見制度の申立て方法|手続きの流れ・費用・必要書類をわかりやすく解説

「親の預金を下ろそうとしたら、本人でないと手続きできないと言われた」「認知症が進み、実家の売却や施設費用の支払いが本人名義のままでは動かせない」——こうした場面で必要になるのが、成年後見制度の申立てです。判断能力が低下した方の財産管理や契約を、家庭裁判所が選んだ後見人などが本人に代わって行う仕組みで、家族が「気づいたときには手続きが進められない」と困るケースが少なくありません。

この記事は、認知症に備えた財産管理の実務編として、成年後見制度の申立ての方法・手続きの流れ・費用・必要書類を、これから制度を利用するご家族(50〜70代)に向けてやさしく整理したものです。制度の全体像については認知症に備える財産管理の記事もあわせてご覧ください。なお、以下は現行制度の一般的な目安であり、実際の取り扱いは事案によって異なります。具体的な手続きは家庭裁判所や司法書士・弁護士へご相談ください。

成年後見制度のおさらい

成年後見制度は、大きく「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれるとされています。すでに判断能力が低下している場合に利用するのが法定後見で、本人の判断能力の程度に応じて次の3類型があります。

  • 後見…判断能力が欠けているのが通常の状態の方が対象。後見人が広く財産管理などを代理するとされています。
  • 保佐…判断能力が著しく不十分な方が対象。重要な財産行為について保佐人の同意が必要になるとされています。
  • 補助…判断能力が不十分な方が対象。必要な範囲を定めて補助人が支援するとされています。

一方の任意後見は、判断能力があるうちに、将来支援してもらう人と支援内容を契約(公正証書)で決めておく仕組みです。すでに判断能力が低下している場合は任意後見を新たに結ぶことは難しく、法定後見の申立てを検討することになります。この記事では、家庭裁判所への申立てが必要な法定後見を中心に解説します。

申立てができる人

法定後見の申立ては、誰でもできるわけではなく、法律で申立てができる人(申立権者)が定められています。一般的には次のような方とされています。

  • 本人(後見などを受ける方本人)
  • 配偶者
  • 四親等内の親族(子・孫・兄弟姉妹・おい・めい・いとこなど)
  • 市区町村長(身寄りがないなど一定の場合)
  • 成年後見人・保佐人・補助人、任意後見人など

身寄りのない方や、親族が申立てに協力できない場合には、市区町村長による申立て(首長申立て)が利用されることもあります。おひとりさまの備えについてはおひとりさまの終活もご参照ください。どなたが申立てをするか迷う場合は、地域包括支援センターに相談すると整理しやすいでしょう。

申立ての流れ

申立てから後見開始までは、おおむね次のような流れで進みます。全体でおおよそ2〜4か月程度が目安とされていますが、鑑定の要否や事案の内容によって前後します。

ステップ内容期間の目安
1. 相談家庭裁判所や地域包括支援センター、司法書士・弁護士に相談し、制度の利用が適切か確認する随時
2. 書類準備申立書や診断書、戸籍、財産に関する資料などをそろえる数週間〜
3. 申立て本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立書類を提出する
4. 調査・鑑定家裁による面接・調査、必要に応じて医師の鑑定が行われる数週間〜数か月
5. 審判家裁が後見開始などを判断し、後見人等を選任する
6. 後見開始・登記審判の確定後、後見の内容が法務局に登記される審判確定後

申立て後は、原則として家庭裁判所の許可がなければ申立てを取り下げることはできないとされています。「とりあえず出してみる」のではなく、事前に相談してから進めると安心です。

申立先は、原則として本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。どこの裁判所に申立てるか分からない場合は、市区町村や地域包括支援センターに確認できます。なお、保佐・補助では、代理権などを付与する範囲について本人の同意が必要になる場合があるとされています。

必要書類

申立てには多くの書類が必要です。裁判所や事案によって異なりますが、一般的に次のようなものが求められるとされています(いずれも目安です)。

  • 申立書(後見・保佐・補助開始などの申立書)
  • 本人の診断書(家庭裁判所所定の様式。主治医などに作成を依頼)
  • 本人の戸籍謄本・住民票
  • 後見人等候補者の住民票など
  • 財産目録(預貯金・不動産・保険・負債などの一覧)
  • 収支予定表(年間の収入と支出の見込み)
  • 預貯金通帳の写し、不動産登記事項証明書、年金額のわかる資料など
  • 本人の判断能力に関する報告書(本人情報シートなど)

診断書は制度利用の判断に関わる重要な書類です。様式や記載事項は家庭裁判所のウェブサイトで公開されていることが多いため、事前に確認しておくとよいでしょう。

これらの書類のうち、戸籍謄本や住民票は市区町村の窓口、不動産登記事項証明書は法務局で取得できます。診断書や本人情報シートは医療機関・福祉関係者に作成を依頼します。書類の抜けや古い日付があると受理が遅れることもあるため、取得時期にも気を配りましょう。

費用の目安

申立てにかかる費用は、収入印紙や郵便切手などの実費が中心で、比較的少額とされています。ただし鑑定が行われる場合や、司法書士・弁護士に手続きを依頼する場合は別途費用がかかります。おおよその目安は次のとおりです。

項目費用の目安備考
申立手数料(収入印紙)数百円〜千円程度後見・保佐・補助で異なる
登記手数料(収入印紙)2,600円程度後見等の登記のため
郵便切手数千円程度裁判所により金額が異なる
診断書作成料数千円〜1万円程度医療機関により差がある
鑑定費用5万〜10万円程度必要な場合のみ。近年は実施される割合は限定的とされる
専門職への依頼報酬10万〜20万円程度司法書士・弁護士に申立てを依頼する場合

金額はあくまで一般的な目安であり、地域や依頼先によって変わります。費用負担が難しい場合には、成年後見制度利用支援事業など公的な助成が受けられることもあるため、市区町村や地域包括支援センターに確認してみましょう。

後見人には誰がなる?

後見人などを選ぶのは家庭裁判所です。申立ての際に候補者を挙げることはできますが、最終的に誰を選任するかは家裁が本人の状況に応じて判断するとされています。そのため、希望した親族が必ず選ばれるとは限らない点に注意が必要です。

  • 親族後見人…配偶者や子などの家族が後見人になるケース。
  • 専門職後見人…司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家が選ばれるケース。財産が多い、親族間で意見が分かれている、管理が複雑といった事情がある場合に選ばれやすいとされています。

親族と専門職が複数で関わる形や、専門職が後見監督人として関与する形がとられることもあります。「家族がなれると思っていたのに専門職が選ばれた」という声もあるため、事前に見通しを相談しておくとよいでしょう。

後見人の役割と報酬

後見人の役割は、大きく財産管理身上監護(しんじょうかんご)に分けられます。財産管理は預貯金や不動産の管理、収入・支出の管理などを指し、身上監護は介護・医療・施設入所などの契約や手続きを本人に代わって行うことを指すとされています。

後見人は、家庭裁判所に対して定期的に財産状況や収支を報告する義務を負うとされています。日々の記録や領収書の保管など、継続的な事務が求められます。

後見人の報酬は、家庭裁判所が本人の財産額や事務の内容に応じて決めるとされ、目安として月額数万円程度とされることが多いようです。財産が多い場合や特別な事務があった場合は、これより高くなることもあります。親族後見人でも、家裁に申し立てれば報酬が認められる場合があります。

また、家庭裁判所が必要と判断した場合には、後見人を監督する後見監督人(専門職など)が選ばれることがあります。この場合、後見監督人の報酬も本人の財産から支払われるのが一般的とされ、その分の負担も見込んでおくと安心です。

成年後見制度の注意点(メリット・デメリット)

制度を利用する前に、メリットとデメリットの両面を理解しておくことが大切です。

メリットとしては、判断能力が低下した本人の財産を第三者の目が入る形で守れること、預貯金の管理や施設費用の支払い、不動産の手続きなどが本人に代わって進められること、悪質な契約から本人を保護しやすくなることなどが挙げられます。

デメリット・注意点としては、次のような点がよく指摘されます。

  • 一度始めると、原則として本人の判断能力が回復するなどしない限り途中でやめられないとされています。
  • 本人の財産は本人のために使うことが原則で、生前贈与や相続税対策、積極的な資産運用といった柔軟な使い方は制限されるとされています。
  • 専門職が後見人・監督人になると、継続的に報酬が発生します。
  • 申立てから開始まで時間と手間がかかります。

「預金を下ろすためだけに始めたい」といった動機の場合、想定と実際の運用が食い違うことがあります。生前の資産承継を考える場合は、遺言書の書き方など他の備えとあわせて、早めに専門家へ相談しておくと選択肢を広げられます。

申立てで困ったときの相談先

手続きや書類でつまずいたときは、一人で抱え込まず、次のような窓口に相談できます。

  • 家庭裁判所の後見係…申立ての手続きや書類様式についての案内。
  • 地域包括支援センター…高齢者の生活・介護・権利擁護の総合相談窓口。
  • 法テラス(日本司法支援センター)…経済的に余裕がない方への法的支援や情報提供。
  • 司法書士会・弁護士会…成年後見に詳しい専門家の紹介や相談。
  • 各地の成年後見センター・権利擁護に関する相談機関など。

よくある質問(FAQ)

Q. 申立ての費用はいくらぐらいかかりますか?

収入印紙や郵便切手などの実費は数千円程度に収まることが多いとされています。これに診断書作成料が数千円〜1万円程度、鑑定が必要な場合は5万〜10万円程度、司法書士・弁護士に依頼する場合は10万〜20万円程度が別途かかることがあります。いずれも目安であり、詳しくは依頼先にご確認ください。

Q. 申立てから利用開始まで、どれくらいの期間がかかりますか?

おおむね2〜4か月程度が目安とされています。鑑定が行われる場合や、書類の準備に時間がかかる場合はさらに長くなることもあります。急ぎの事情がある場合は、相談の段階でその旨を伝えておくとよいでしょう。

Q. 家族が後見人になることはできますか?

候補者として家族を挙げることはできますが、最終的に選任するのは家庭裁判所です。財産が多い、親族間で意見が分かれているなどの事情があると、専門職が選ばれることもあります。必ず家族が選ばれるとは限らない点をふまえて検討しましょう。

Q. 途中でやめることはできますか?

成年後見(法定後見)は、原則として本人の判断能力が回復するなどの事情がない限り、途中で任意にやめることはできないとされています。「一時的に使いたい」といった利用は想定されていないため、開始前に見通しをよく確認しておくことが大切です。

Q. 後見人には報酬を払う必要がありますか?

専門職が後見人や監督人になる場合、家庭裁判所が定める報酬(目安として月額数万円程度)が本人の財産から支払われるのが一般的とされています。親族後見人の場合も、家裁に申し立てて認められれば報酬を受け取れることがあります。

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まとめ

成年後見制度の申立ては、判断能力が低下した親などの財産管理や契約を支えるための大切な手続きです。申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・市区町村長などで、家庭裁判所へ申立書・診断書・財産目録などを提出し、調査・審判を経て後見が始まります。期間は2〜4か月程度、費用は実費に加え診断書・鑑定・専門職報酬などが目安です。

一方で、一度始めると原則やめられない、財産の柔軟な運用や生前贈与が制限されるといった注意点もあります。メリットとデメリットを整理したうえで、家庭裁判所・司法書士・弁護士・地域包括支援センターなどに早めに相談し、ご家族に合った方法を選ぶことをおすすめします。

※この記事は現行制度の一般的な目安をまとめたものであり、法改正や個別の事情により取り扱いは異なる場合があります。実際の手続きや判断にあたっては、必ず家庭裁判所・司法書士・弁護士・地域包括支援センターなどの専門機関にご確認ください。