生前贈与のやり方と非課税枠|暦年贈与・相続時精算課税の違いと注意点

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まとまった財産をお持ちの方にとって、生前贈与は相続税の負担をやわらげる有効な方法のひとつとされています。ただ、「どうやって進めればよいのか」「いくらまでなら贈与税がかからないのか」「暦年贈与と相続時精算課税はどう違うのか」と、迷われる方も少なくありません。この記事では、生前贈与の基本的な考え方から、非課税枠の仕組み、二つの制度の違い、手続きの進め方や失敗しないための注意点までを、50〜70代の方とそのご家族に向けてやさしく整理してご説明します。税制は年によって見直されることがありますので、実際のご判断にあたっては税理士や税務署にもご確認いただくと安心です。

生前贈与とは

生前贈与とは、財産をお持ちの方が生きているうちに、その財産を配偶者やお子さま、お孫さまなどへ渡すことをいいます。相続税は、亡くなった時点で残っていた財産に対してかかる仕組みです。そのため、生きているうちに少しずつ財産を移しておくと、将来相続税の対象となる財産そのものを減らせる可能性がある、というのが生前贈与が相続税対策になる理由とされています。

財産を渡す側を「贈与者」、受け取る側を「受贈者」と呼びます。生前贈与には、後ほどご説明する「暦年贈与(暦年課税)」と「相続時精算課税制度」という二つの課税方法があり、どちらを使うかによって非課税になる範囲や相続のときの扱いが変わってきます。ご自身の財産がそもそも相続税の対象になりそうかどうかは、相続税がかかる基準相続税の基礎控除もあわせてご確認いただくと、対策の必要性が見えやすくなります。

生前贈与は、財産を減らすことだけが目的ではありません。お子さまやお孫さまが住宅の購入や教育などでお金を必要とする時期に合わせて渡せること、また元気なうちにご自身の意思で「誰に何を渡すか」を決められることも大きな利点とされています。反対に、渡しすぎてご自身の老後資金が足りなくなっては本末転倒です。まずは今後の生活に必要なお金を確保したうえで、余裕のある範囲で計画することが基本の目安になります。

暦年贈与(年110万円の基礎控除)

暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与の合計額に対して課税する「暦年課税」を使った贈与のことです。この暦年課税には年間110万円の基礎控除があり、受け取った額が1年間で110万円までであれば贈与税はかからず、申告も原則として不要とされています。

110万円を超えた部分には贈与税がかかります。贈与税は、1年間に受け取った合計額から基礎控除110万円を差し引いた残りに、金額に応じた税率をかけて計算するのが基本的な考え方です。金額が大きくなるほど税率が高くなる仕組みで、親や祖父母から18歳以上の子や孫へ渡す場合には、一般より少しゆるやかな税率(特例税率)が使えるとされています。毎年コツコツと110万円の範囲で贈与を続ければ、長い年月をかけて無理なく財産を移していくことができます。具体的にいくら贈与するとどれくらいの効果があるかは、生前贈与シミュレーターで目安を試算してみるとイメージしやすくなります。

たとえば、お子さま2人にそれぞれ毎年110万円ずつ10年間贈与すると、合計で2200万円もの財産を贈与税をかけずに移せる計算になります(あくまで単純化した目安です)。このように、暦年贈与は「少額を・長い期間・複数の人へ」渡すことで、大きな効果が期待できる点が魅力とされています。ただし後述する生前贈与加算の期間もありますので、早めに始めることが効果を高めるポイントです。

相続時精算課税制度(2500万円まで・2024年からの年110万円基礎控除の新設)

相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ贈与する場合に選べる制度です。この制度を選ぶと、累計2500万円までの贈与について贈与時には贈与税がかからず、2500万円を超えた部分に一律20%の贈与税がかかるとされています。ただし名前のとおり、贈与した財産は相続のときに相続財産へ加えて相続税を計算し直す(精算する)仕組みで、贈与税を非課税にして先送りする性格の制度と考えるとわかりやすいでしょう。

2024年(令和6年)からは、この相続時精算課税制度にも年110万円の基礎控除が新しく設けられました。現行制度では、年110万円までの部分は贈与税がかからないうえ、相続のときにも相続財産へ加算されないとされています。この点は暦年贈与にはない特徴です。一方で、相続時精算課税制度は一度選ぶとその贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことができません。両者を組み合わせて使うこともできないため、選ぶ前にどちらが向いているかをよく考えることが大切です。

なお、相続時精算課税制度を利用するには、最初の贈与を受けた年の翌年に「相続時精算課税選択届出書」を税務署へ提出する必要があるとされています。届け出を忘れると暦年課税の扱いになりますので、手続きの時期にも注意が必要です。将来値上がりが見込まれる財産を早めに渡したい場合などに検討されることが多い制度ですが、選択は慎重に行いましょう。

暦年贈与と相続時精算課税の比較

二つの制度の主な違いを、あくまで目安として表にまとめました。どちらが有利かは財産の規模や家族構成、贈与を始める年齢によって変わりますので、判断に迷う場合は税理士にご相談ください。

項目暦年贈与(暦年課税)相続時精算課税
非課税枠年110万円まで(毎年使える)累計2500万円まで+年110万円の基礎控除
相続時の扱い一定期間内の贈与は相続財産に加算贈与分を相続財産に加算し精算(年110万円分は加算対象外)
制度の変更年ごとに自由に使える一度選ぶと暦年課税へ戻せない
向くケースの目安早くから毎年少しずつ渡したい方まとまった財産を早めに渡したい方

表はあくまで一般的な傾向を示した目安です。実際には、贈与する財産の種類(現金か不動産か)、贈与者のご年齢、相続人の人数などによって、どちらが有利になるかは変わってきます。とくに相続時精算課税は途中で暦年課税へ戻せないため、目先の非課税枠だけで決めず、相続全体を見通したうえで選ぶことが大切です。

生前贈与加算(持ち戻し)に注意

暦年贈与を利用するときに気をつけたいのが、「生前贈与加算(持ち戻し)」と呼ばれる取り扱いです。これは、相続や遺贈で財産を受け取った方が、相続開始前の一定期間内に贈与を受けていた場合、その贈与分を相続財産に加えて相続税を計算するという仕組みです。せっかく毎年110万円の範囲で贈与していても、亡くなる直前の分は相続財産に戻して計算されることがある、という点に注意が必要です。

この加算の対象となる期間は、現行制度では相続開始前3年間から段階的に7年間へと延長されるとされています。2024年(令和6年)以降の贈与から順に対象期間が広がっていく形で、延長された期間分の贈与のうち一定額については加算しない配慮も設けられているとされています。制度の移行期にあたり取り扱いが細かいため、詳しくは税理士や税務署にご確認ください。いずれにしても、生前贈与は思い立ってすぐより、早めに少しずつ始めておくほうが効果を得やすいと考えられています。

目的別の非課税特例(教育・結婚子育て・住宅取得等資金)

年110万円の枠とは別に、使い道を限った「一括贈与の特例」もあります。いずれも要件や適用期限が細かく、期限が延長・見直しされることもありますので、利用を検討される際は最新の内容を必ずご確認ください。以下はおおよその目安です。

  • 教育資金の一括贈与…父母や祖父母から30歳未満の子や孫へ、学校の授業料などの教育資金を一定額まで非課税で一括贈与できる特例とされています。
  • 結婚・子育て資金の一括贈与…結婚や出産、子育てにかかる資金を一定額まで非課税で一括贈与できる特例とされています。
  • 住宅取得等資金の贈与…マイホームの新築や購入、増改築のための資金を、一定額まで非課税で贈与できる特例とされています。

これらの特例は、専用の口座を作る、使い道を証明する書類を残す、期限までに使い切るなど、手続き上の決まりがあります。使い残した分に課税されることもありますので、目的や時期がはっきりしている場合に向いた制度といえるでしょう。

これらの一括贈与の特例は、通常の年110万円の贈与とあわせて使えることもありますが、要件を満たさないと課税されるため、利用前に金融機関や税理士に相談するのが安心です。ご家庭の状況やお金を使う予定に合っているかどうかを、落ち着いて見極めましょう。

生前贈与の正しいやり方・手続き

生前贈与は、ただお金を渡せばよいというものではありません。あとから「本当に贈与があったのか」を税務署に確認されても説明できるよう、記録を残しておくことが大切です。基本的な進め方の目安は次のとおりです。

  • 贈与契約書を作る…「誰が・誰に・いつ・いくらを贈与したか」を書面に残し、双方が署名します。口約束ではなく形にしておくことが、贈与を証明する助けになります。
  • 銀行振込で記録を残す…手渡しよりも、通帳に記録が残る振込のほうが客観的な証拠になります。
  • 受け取る人が口座を管理する…受贈者本人が通帳や印鑑を持ち、自由に使える状態にしておきます。名義だけ子や孫にして親が管理していると、贈与と認められないことがあります。
  • 「定期贈与」とみなされない工夫…毎年決まった額を約束していると、はじめからまとまった額を贈る約束とみなされる場合があります。金額や時期を毎年見直すなどの配慮が目安とされています。

これらはいずれも、税務署から見て「贈与が実際に行われた」と説明できる状態を整えるための工夫です。書類づくりに不安がある場合は、税理士に相談しながら進めると安心でしょう。ひと手間かけて記録を残しておくことが、のちのちのご家族の負担を減らすことにつながります。

生前贈与で失敗しないための注意点

生前贈与でとくに問題になりやすいのが「名義預金」です。名義預金とは、通帳の名義は子や孫でも、実際にはお金を出した親や祖父母が管理しているような預金のことをいいます。この場合、名義が違っても実質的には元の持ち主の財産とみなされ、相続税の対象として扱われることがあります。いわゆる「へそくり」も同じで、配偶者名義でも家計から積み立てた分は元の名義人の財産と見られることがある、とされています。

税務署は、お金の流れと、実際に誰がその預金を管理・使用しているかを見ています。贈与を確かなものにするには、契約書・振込記録・受贈者本人による口座管理という3つをそろえておくことが安心につながります。良かれと思った贈与が、記録の不備で認められないと、かえって相続時にトラブルのもとになりかねません。判断に迷うときは、早めに税理士や税務署へご相談ください。

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よくある質問(FAQ)

Q. 年110万円を超えて贈与したらどうなりますか?

暦年課税では、110万円を超えた部分に贈与税がかかり、原則として受け取った翌年に申告と納税が必要とされています。超えたからといって直ちに問題になるわけではなく、あえて少し超える額を贈って申告記録を残す進め方を選ぶ方もいます。金額が大きい場合は事前に税理士へご相談ください。

Q. 贈与契約書は必ず作らないといけませんか?

法律上、贈与そのものは口約束でも成立するとされていますが、後から贈与があったことを証明するためには契約書を残しておくことが望ましいとされています。とくに毎年の暦年贈与では、契約書と振込記録があると税務署への説明がしやすくなります。

Q. 孫への贈与にメリットはありますか?

お孫さまへの贈与は、財産を一世代飛ばして渡せる点が特徴です。また、相続や遺贈で財産を受け取らないお孫さまへの暦年贈与は、生前贈与加算の対象になりにくいとされる場合があります。ただし取り扱いは状況によって異なりますので、詳しくは税理士や税務署にご確認ください。

Q. 暦年贈与と相続時精算課税、どちらを選べばよいですか?

一概にはいえませんが、早い時期から毎年少しずつ渡していきたい方には暦年贈与、まとまった財産を早めに次の世代へ渡したい方には相続時精算課税が向くことが多いとされています。財産の規模やご年齢によって有利・不利が変わりますので、目安として比較表もご参照のうえ、最終的には専門家にご相談ください。

Q. どのくらい早く始めればよいですか?

生前贈与加算の期間があるため、暦年贈与は早く始めるほど相続財産を減らす効果を得やすいと考えられています。健康なうちに、無理のない範囲で計画的に始めることが一つの目安です。

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まとめ

生前贈与は、生きているうちに財産を渡すことで、将来の相続税の負担をやわらげられる可能性のある方法とされています。年110万円まで非課税の暦年贈与と、累計2500万円まで+年110万円の基礎控除がある相続時精算課税という二つの制度があり、それぞれ非課税枠や相続時の扱い、向くケースが異なります。あわせて、生前贈与加算(現行制度では3年から段階的に7年へ延長とされています)や、名義預金にしないための記録づくりにも気を配ることが大切です。ご自身の場合の効果は生前贈与シミュレーターで目安を確かめつつ、具体的な進め方は税理士や税務署にご確認いただくのが安心です。

※本記事は一般的な情報をやさしくまとめたもので、2026年7月時点の情報をもとにしています。税制は改正されることがあり、個々のご事情によって取り扱いが異なります。実際のご判断にあたっては、必ず税理士や最寄りの税務署にご確認ください。