「亡くなった父の相続手続きを進めていたら、専業主婦だった母や、まだ幼い孫の名義で、思いのほか多くの預金があった」——このような場面は決して珍しくありません。名義はご家族のものでも、そのお金を実際に出していたのが被相続人(亡くなった方)であれば、その預金は「名義預金(めいぎよきん)」として、亡くなった人の相続財産に含めて考える必要があります。
名義預金は、相続税の税務調査でもっとも指摘されやすい項目のひとつとされています。この記事では、名義預金とは何か、なぜ相続税で問題になるのか、そして名義預金と判断されないための対策までを、50〜70代のご本人とそのご家族に向けて、やさしく解説します。
名義預金とは
名義預金とは、口座の名義人と、実際にそのお金を出した人(原資を負担した人)が異なる預金のことをいいます。たとえば、夫が自分の収入から妻や子ども・孫の名義で口座を作り、そこにお金を積み立てているようなケースです。
大切なのは、預金が誰の財産かは「名義」ではなく「実質」で判断される、という考え方です。通帳に書かれた名前がご家族のものであっても、そのお金を出したのが被相続人で、実際に管理していたのも被相続人であれば、税務上はその預金を被相続人の財産とみなされることがあります。
「子どもの将来のために」「孫にお金を残したい」という善意で作った口座であっても、正しい手続きを踏んでいなければ名義預金と判断されてしまう——ここに、多くのご家庭が気づかないままになっている落とし穴があります。
たとえば、専業主婦のご家庭で夫の給与から毎月一定額を妻名義の口座へ積み立てていた場合、通帳の名前は妻でも、そのお金の出どころは夫です。夫が亡くなったときには、この預金が名義預金にあたるかどうかが問われることになります。名義を分けること自体が悪いわけではなく、あくまで「実際に誰のお金か」が判断の分かれ目になります。
なぜ相続税で問題になるのか
名義預金が問題になる最大の理由は、それが被相続人の相続財産として加算され、相続税の課税対象になるためです。
相続税は、亡くなった方が残した財産の総額をもとに計算されます。名義がご家族のものだからと申告に含めずにいると、後の税務調査で名義預金と指摘され、申告漏れとして扱われる可能性があります。その場合、本来納めるべき相続税に加えて、過少申告加算税や延滞税、悪質と判断されれば重加算税といったペナルティが上乗せされることもあるとされています。
相続税の税務調査では、被相続人だけでなくご家族名義の預金の動きまで確認されるのが一般的とされています。「なぜこの時期にまとまった入金があるのか」「この預金の原資は誰か」といった点が調べられ、名義預金は代表的な指摘項目となっています。ご家族に悪気がなくても、結果として追徴課税につながることがあるため、あらかじめ正しく理解しておくことが大切です。
とくに注意したいのは、生前に「贈与したつもり」でご家族名義に移していたお金です。贈与が正しく成立していないと判断されれば、名義がご家族でも被相続人の財産として扱われ、相続税の計算に含める必要が出てきます。良かれと思って続けてきた積み立てが、思わぬ申告漏れにつながらないよう、早い段階で実態を確認しておくことが大切です。
なお、いくらから相続税がかかるのかという基準(基礎控除)については、相続税がかかる基準の記事もあわせてご覧ください。
名義預金と判断されやすいケース
以下のようなケースは、税務上、名義預金と判断されやすいとされています。あくまで目安ですが、当てはまる点がないか確認してみましょう。
| ケース | 名義預金と判断されやすいポイント | 考え方 |
|---|---|---|
| 専業主婦名義の多額の預金 | 収入がないはずの配偶者名義に大きな残高がある | 原資が被相続人の収入なら被相続人の財産とみなされやすい |
| 子・孫名義への毎年の入金 | 本人が知らないうちに定期的に入金されている | 贈与の合意がなければ贈与は成立していないと考えられる |
| 本人が口座の存在を知らない | 名義人が口座やお金の存在を把握していない | 名義人の財産として管理されているとはいえない |
| 通帳・印鑑を本人に渡していない | 被相続人が通帳・印鑑・キャッシュカードを管理している | 実際の管理者が被相続人なら被相続人の財産とみなされやすい |
| 名義人が自由に使えない | 名義人の意思で引き出し・利用ができない | お金の利益を得ているのが名義人といえない |
いずれも「名義はご家族でも、実態は被相続人のもの」と見られやすい典型例です。ひとつ当てはまるからただちに名義預金というわけではありませんが、複数重なるほど指摘されやすくなるとされています。
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名義預金かどうかの判断基準
名義預金かどうかは、名義ではなく実態で総合的に判断されます。主に次の4つの視点が目安になるとされています。
- 原資は誰か(誰のお金か):そのお金のもともとの出どころが被相続人であれば、名義預金とみなされやすくなります。
- 管理は誰がしていたか:通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が保管し、入出金を誰が行っていたか。被相続人が管理していれば、実質的な持ち主は被相続人と見られます。
- 贈与の事実(合意)があるか:「あげます」「もらいます」という双方の合意があって初めて贈与は成立します。一方的に入金しただけでは贈与とは認められにくいとされています。
- 利益を誰が得ているか:預金の利息を受け取ったり、そのお金を実際に使ったりしているのが名義人本人かどうか。
これらを総合し、実質的にお金の持ち主が誰なのかで判断されます。判断が難しい場合や金額が大きい場合は、税理士や税務署に確認することをおすすめします。
たとえば、原資が被相続人で、通帳も印鑑も被相続人が管理し、名義人はその口座の存在すら知らなかった——というように複数の要素が重なる場合は、名義預金と判断される可能性が高いとされています。反対に、原資も管理も名義人ご本人であれば、名義預金にはあたりません。一つひとつの事実を客観的に説明できるかどうかが目安になります。
生前贈与との違い
名義預金とよく混同されるのが「生前贈与」です。両者の違いは、正しい贈与の手続きが取られているかどうかにあります。
生前贈与は、贈る人(贈与者)と受け取る人(受贈者)の双方が合意し、受け取った人が自分の財産として自由に管理・使用できる状態になっていることが条件です。この条件を満たしていれば、そのお金は受贈者のものとなり、名義預金にはなりません。
反対に、名義だけご家族に移して実際は被相続人が管理し続けている場合は、贈与が成立しておらず、名義預金と判断されてしまいます。「贈与したつもり」で終わらせないことが重要です。
正しい生前贈与のやり方については、生前贈与のやり方で詳しく解説しています。また、贈与額に応じた税負担の目安は生前贈与シミュレーターで確認できます。
名義預金にしないための対策
名義預金と判断されないためには、「贈与が成立している」といえる状態を、記録とともに整えておくことが大切です。現行制度では、次のような方法が有効とされています。
- 贈与契約書を作る:贈与のたびに、贈与者・受贈者の双方が署名した契約書を残しておきます。日付や金額、双方の合意を書面で示せます。
- 本人が管理する口座に振り込む:受贈者本人が普段使っている口座へ振り込み、通帳・印鑑・キャッシュカードも本人が管理します。
- 振込の記録を残す:手渡しではなく銀行振込にすることで、いつ・いくら渡したかが記録として残ります。
- あえて贈与税の申告をして記録を残す:基礎控除(年間110万円)を少し超える額を贈与し、贈与税の申告と納税をしておくことで、贈与があった事実を客観的に示す方法もあります。
- 受贈者本人が使える状態にする:受け取ったお金を、名義人が自分の判断で使える状態にしておきます。
いずれも「名義人のお金である」という実態を裏づけるための工夫です。税の細かな取り扱いはケースによって異なるため、実行前に税理士や税務署に確認しておくと安心です。
これらの対策は、贈与を始める段階から意識しておくほど効果的とされています。すでに何年も積み立ててきた口座について、あとから贈与の事実を証明するのは簡単ではありません。これから贈与を考えている場合は、契約書や振込記録といった「形に残るもの」を最初から用意しておくと、後々の説明がしやすくなります。
すでに名義預金がある場合の考え方
「気づいたら名義預金になっているかもしれない」という場合も、あわてる必要はありません。大切なのは、早めに実態を整理し、相続の際に正しく申告することです。
まずは、ご家族名義の口座について、原資は誰か・管理は誰がしていたかを整理してみましょう。名義預金にあたる可能性が高いものは、相続財産に含めて申告するのが原則とされています。判断に迷うものは、自己判断せず税理士や税務署に相談することをおすすめします。
相続が発生した後に申告漏れが見つかるより、あらかじめ正しく申告しておくほうが、加算税などのリスクを避けられます。相続税の申告と納付の流れについては、相続税の申告と納付もあわせてご確認ください。
へそくりの扱い
「長年こつこつ貯めたへそくりは、自分のものだから相続税とは関係ないのでは?」と考える方も多いかもしれません。しかし、へそくりも注意が必要です。
たとえば、専業主婦の方が家計をやりくりして貯めたへそくりでも、そのお金のもとが配偶者(被相続人)の収入である場合は、原資が被相続人由来と見られ、名義預金として相続財産に含まれることがある、とされています。名義や保管場所がご本人であっても、「誰のお金だったか」で判断される点はこれまでと同じです。
なお、へそくりが名義預金にあたるかどうかも、金額の大小だけで決まるわけではありません。長年の生活費のやりくりで生じたわずかな残りなのか、まとまった額を計画的に貯めていたのかなど、その性質によっても見方は変わるとされています。判断に迷う場合は、自己判断せず税理士や税務署に確認しておくと安心です。
もちろん、配偶者ご自身の収入や、正しく贈与を受けたお金であれば、その方ご自身の財産となります。あくまで目安ですが、金額が大きい場合は原資をはっきりさせておくと安心です。
よくある質問
Q. 妻名義の預金は、すべて名義預金になりますか?
A. いいえ。妻ご自身の収入や、正しく贈与を受けたお金であれば妻の財産です。名義預金とされやすいのは、原資が夫(被相続人)で、管理も夫が行っていた場合です。原資と管理の実態がポイントとされています。
Q. 子どもや孫のために積み立てている学資は名義預金になりますか?
A. 親や祖父母が入金し、通帳や印鑑も親側が管理していて、子・孫本人が知らない場合は名義預金と判断されやすくなります。贈与契約を交わし、本人(未成年なら親権者)が管理するなど、贈与が成立する形にしておくことが大切です。
Q. いくらから名義預金として問題になりますか?
A. 明確な金額基準はなく、少額でも名義預金にあたることはあります。ただし金額が大きいほど税務調査で注目されやすいとされています。判断は金額だけでなく実態でなされるため、気になる場合は税理士や税務署に確認しましょう。
Q. 名義預金は税務署にわかってしまうのでしょうか?
A. 相続税の調査では、ご家族名義の口座の入出金まで確認されるのが一般的とされています。過去の入金の流れや原資がたどられるため、名義だけご家族にしていても実態は把握されやすいと考えておくのが安心です。
Q. 名義預金だとわかったら、どうすればよいですか?
A. 相続財産に含めて正しく申告するのが原則です。生前であれば、正しい贈与の形に整え直すことも考えられます。いずれも判断が難しいため、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
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まとめ
名義預金とは、口座の名義人と実際にお金を出した人が異なる預金のことで、預金が誰のものかは名義ではなく実質で判断されます。原資・管理・贈与の合意・利益を誰が得ているか、といった実態から総合的に判断され、被相続人のものとされれば相続財産に加算されます。
ご家族への善意で作った口座でも、正しい手続きを踏んでいなければ名義預金と見られ、相続税の申告漏れや加算税につながることがあります。防ぐには、贈与契約書を残す・本人が管理する口座に振り込む・記録を残すなど、「贈与が成立している」といえる状態を整えておくことが大切です。
すでに名義預金があるかもしれない場合も、早めに実態を整理し、相続の際に正しく申告すれば、過度に心配する必要はありません。税の取り扱いは個々のご事情で変わるため、判断に迷うときは税理士や税務署に確認しながら進めましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。制度は改正される場合があります。実際のお手続きや判断にあたっては、必ず税理士や所轄の税務署にご確認ください。
