親やご自身の介護が現実味を帯びてくると、「介護にはいくらかかるのだろう」という不安を抱く方は少なくありません。介護費用は、住まいの状況や要介護度、在宅か施設かによって大きく変わるため、ひとつの正解があるわけではありません。ただ、全体像と目安を知っておくことで、必要以上に不安を感じたり、逆に備えが足りずに慌てたりすることを防ぎやすくなります。
この記事では、在宅介護と施設介護でかかる費用の目安、公的介護保険の仕組み、費用を軽くするための制度、そして無理のない備え方について、50代〜70代の方とそのご家族に向けてやさしく解説します。金額はいずれも一般的な目安であり、実際の負担は状況によって前後する点を、あらかじめご了承ください。
介護費用の全体像をつかむ
介護にかかるお金は、大きく「一時的にかかる費用」と「毎月継続してかかる費用」の2つに分けて考えると整理しやすくなります。一時費用は、介護用ベッドの購入や手すりの設置、住宅改修、施設への入居一時金など、介護が始まるときやまとまった準備をするときにかかるお金です。月々の費用は、介護サービスの自己負担分や施設の利用料、おむつなどの日用品費といった、毎月継続してかかるお金を指します。
介護費用に大きな幅が出るのは、要介護度が上がるほど必要な介護サービスが増えること、そして自宅で暮らし続けるのか施設に入るのかで負担の性質が変わることが主な理由です。同じ「要介護3」であっても、家族がどれだけ介護に関われるか、どのようなサービスを組み合わせるかによって、毎月の出費は数万円単位で変わってきます。だからこそ、まずは大まかな幅をつかみ、そのうえでご家庭の状況に当てはめて考えることが大切です。
期間の見通しも大切です。生命保険文化センターの調査では、介護を行った期間は平均でおよそ5年前後、月々の介護費用は平均で数万円台という水準が紹介されることが多く、一時費用とあわせると総額では相応の金額になる可能性があるとされています。ただしこれはあくまで平均的な目安であり、短期間で終わる方もいれば、10年以上続く方もいます。「平均」に振り回されすぎず、幅を持って考えることが大切です。
老後全体のお金の見通しを立てたい方は、老後資金はいくら必要かをまとめた記事もあわせて確認すると、介護費用を含めた全体像がつかみやすくなります。
介護費用の目安(在宅・施設・一時費用)
まずは全体像として、在宅介護・施設介護・一時費用のおおまかな目安を表にまとめます。金額はいずれも目安であり、要介護度・地域・所得・利用するサービス内容によって変わります。
| 区分 | 費用のイメージ(目安) |
|---|---|
| 在宅介護の月額 | 月およそ5万〜10万円程度(目安) |
| 施設介護の月額 | 月およそ10万〜30万円程度(目安) |
| 一時費用 | 数十万円程度(目安。住宅改修・福祉用具・入居一時金など) |
在宅は住み慣れた自宅で暮らせる分、月々の負担は比較的抑えやすい傾向があります。一方、施設は食事・入浴・介護が一体で提供されるため月額は高くなりやすく、施設の種類によっては入居時にまとまった一時金が必要になることもあります。上の表はあくまで大きな目安であり、実際にはこの範囲より低く収まる方も、逆に上回る方もいます。次の項目から、それぞれの内訳を詳しく見ていきます。
在宅介護でかかる費用
在宅介護では、主に次のような費用がかかります。いずれも金額は目安で、利用するサービスや地域によって変わります。
- 介護サービスの自己負担:訪問介護やデイサービス、ショートステイなどを利用した際の自己負担分です。公的介護保険を使うと、現行制度では原則として費用の1〜3割が自己負担となります。
- 福祉用具:介護用ベッドや車いす、歩行器などは、レンタルや購入で利用します。レンタルは月数百〜数千円程度が目安で、介護保険の対象になるものもあります。
- 住宅改修:手すりの取り付けや段差の解消などのバリアフリー工事です。介護保険には一定の上限のもとで改修費を補助する仕組みがあり、現行制度では原則1〜3割の自己負担で利用できます。
- 日用品:おむつや尿とりパッド、清拭用品などの消耗品です。毎月数千円〜1万円程度かかることもあり、意外と負担になりやすい項目です。
たとえば、要介護度が軽く、週に数回のデイサービスと福祉用具のレンタルを利用する程度であれば、月々の自己負担は数万円程度に収まることもあります。一方、要介護度が上がって訪問介護やショートステイを頻繁に利用するようになると、月10万円近くまで増えることもあります。在宅介護は、家族が介護の一部を担うことで費用を抑えられる一方、介護する家族の時間的・体力的な負担が大きくなりやすい点にも注意が必要です。費用と家族の負担のバランスを、ケアマネジャーと相談しながら整えていくとよいでしょう。
施設介護でかかる費用
施設介護は、施設の種類によって費用感が大きく異なります。代表的な施設の特徴を表にまとめます。金額はいずれも目安です。
| 施設の種類 | 月額の目安 | 入居一時金 |
|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 月およそ8万〜15万円程度 | 原則不要 |
| 介護老人保健施設(老健) | 月およそ8万〜15万円程度 | 原則不要 |
| 介護付き有料老人ホーム | 月およそ15万〜30万円程度 | 施設により0〜数百万円 |
| サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) | 月およそ10万〜25万円程度 | 敷金など数十万円程度 |
特養は費用を抑えやすく人気が高い一方、要介護度などの条件があり、地域によっては入居までに時間がかかることがあります。老健はリハビリを通じて在宅復帰を目指す施設で、比較的短期の利用が想定されています。介護付き有料老人ホームやサ高住は、サービスや居住環境が手厚い分、月額や一時金が高くなる傾向があります。
施設を選ぶ際は、月額だけでなく入居一時金の有無もあわせて確認しましょう。入居一時金は、いわば家賃の一部を前払いする性格のもので、金額は施設によって大きく異なります。また、月額料金に含まれるもの(食費・管理費・介護サービス費など)は施設ごとに違うため、「月々いくら」という数字だけで比べず、何が含まれているかまで確認することが、あとで「思ったより高かった」と感じないためのポイントです。医療が必要になったときの体制や、看取りへの対応方針も、あわせて見ておくと安心です。
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公的介護保険の仕組み
介護費用を考えるうえで欠かせないのが、公的介護保険です。40歳以上の方が加入し、介護が必要になったときに介護サービスを1〜3割の自己負担で利用できる仕組みです。現行制度の主なポイントを整理します。
- 要介護認定:市区町村に申請し、調査と審査を経て「要支援1〜2」「要介護1〜5」などの区分が認定されます。この区分に応じて、利用できるサービスの範囲や上限が決まります。
- 自己負担割合:サービス費用の自己負担は、現行制度では所得に応じて原則1〜3割です。
- 区分支給限度基準額:要介護度ごとに、介護保険で使えるサービス量に上限(限度額)が設けられています。限度額を超えて利用した分は全額自己負担となります。
- 高額介護サービス費:1か月の自己負担が一定の上限額を超えた場合、超えた分が後から払い戻される仕組みです。
介護保険を使い始めるには、まず市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談し、要介護認定を申請するところから始まります。認定を受けると担当のケアマネジャーがつき、本人や家族の希望を踏まえてケアプラン(介護サービスの利用計画)を作成してくれます。「何から手をつければよいかわからない」というときは、まず地域包括支援センターに電話してみるのが近道です。なお、制度の詳細や自己負担割合は見直されることがあるため、実際の手続きの際は、お住まいの市区町村の窓口で最新の情報を確認すると安心です。
費用を軽減できる制度
介護費用の負担が重くなったときに知っておきたい、負担を軽くするための主な制度を紹介します。いずれも現行制度の概要であり、条件や上限額は変わることがあります。
- 高額介護サービス費:1か月の介護サービスの自己負担が上限を超えた分を払い戻す制度です。上限額は所得に応じて設定されています。
- 高額医療・高額介護合算療養費:1年間の医療費と介護費の自己負担を合算し、上限を超えた分を払い戻す制度です。医療と介護の両方の負担が大きい世帯に役立ちます。
- 特定入所者介護サービス費(補足給付):所得や資産が一定以下の方について、施設利用時の食費・居住費の負担を軽くする仕組みです。
- 医療費控除:一定の在宅サービスや施設サービスの費用は、確定申告で医療費控除の対象になる場合があります。
これらの制度は、自分から申請しないと受けられないものも多くあります。「使えるはずの制度を知らずに払いすぎていた」ということがないよう、ケアマネジャーや市区町村の窓口に相談してみましょう。特に高額介護サービス費や合算療養費は、対象になっているのに気づかないケースもあるため、負担が大きいと感じたら一度確認してみることをおすすめします。
介護費用の備え方
介護費用は、いつ・どのくらい必要になるか事前に読みにくいお金です。だからこそ、ひとつの方法に頼りきるのではなく、次のような複数の視点から、無理のない範囲で備えておくと安心です。
- 貯蓄で備える:まずは基本となるのが、介護や医療のための予備資金です。老後資金全体の中で「介護・医療用」として一定額を意識して確保しておくと、いざというときに慌てにくくなります。老後資金の逆算シミュレーターを使うと、必要額のイメージをつかみやすくなります。
- 民間の介護保険という選択肢:公的介護保険を補う目的で、民間の介護保険や特約が用意されています。ただし、保障内容や保険料は商品によって大きく異なり、向き・不向きも人それぞれです。加入を検討する際は、公的制度でカバーされる範囲を踏まえたうえで、必要性を慎重に判断しましょう。なお本記事は、特定の商品をおすすめするものではなく、一般的な情報としてご紹介しています。
- 家族で話し合っておく:費用の負担を誰がどう分担するか、どこで介護を受けたいかといった希望を、元気なうちに家族で共有しておくことも大切な「備え」です。いざというときの意思決定がスムーズになり、家族間のトラブルも防ぎやすくなります。
備えを考えるうえで大切なのは、「介護費用だけ」を切り離して考えないことです。年金収入や日々の生活費、住まいにかかるお金など、家計全体の中で介護費用をどう位置づけるかという視点を持つと、過不足のない準備がしやすくなります。年金収入を含めた家計全体の見通しを立てたい方は、年金は何歳からもらうのが得かの記事も参考になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 介護費用は平均でいくらくらいかかりますか?
A. 一般的な調査では、月々の介護費用は平均で数万円台、介護用品や住宅改修などの一時費用とあわせると総額で相応の金額になるとされています。ただし要介護度や在宅・施設の違いで大きく変わるため、あくまで目安として捉えてください。
Q. 介護の期間はどのくらい続きますか?
A. 調査では介護期間の平均はおよそ5年前後とされることが多いですが、数か月で終わる方もいれば10年以上続く方もいます。期間には幅があるものと考えて備えておくと安心です。
Q. 親の介護費用は誰が負担するのですか?
A. まずは親自身の年金や資産から支払うのが基本です。それでも不足する場合に子が支援することが多く、兄弟姉妹がいる場合は分担の方法を早めに話し合っておくとトラブルを防ぎやすくなります。
Q. 在宅介護と施設介護では、どちらが安いですか?
A. 一般的には、家族が介護の一部を担える在宅介護のほうが月々の負担は抑えやすい傾向があります。ただし家族の負担は大きくなりやすく、施設は費用が高めでも介護を任せられる安心感があります。金額だけでなく、家族の状況もあわせて考えることが大切です。
Q. 公的介護保険だけで介護費用はまかなえますか?
A. 公的介護保険を使えば自己負担は原則1〜3割に抑えられますが、日用品費や施設の食費・居住費など、保険の対象外の費用もあります。保険で全額まかなえるわけではない点を踏まえて、ある程度の自己資金も準備しておくと安心です。
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まとめ
介護費用は、「一時費用」と「月々の費用」に分けて考えると全体像がつかみやすくなります。在宅か施設か、要介護度や地域によって金額は大きく変わりますが、月々の目安は在宅でおよそ5万〜10万円、施設でおよそ10万〜30万円程度が一つの目安です(いずれも目安)。
大切なのは、公的介護保険や高額介護サービス費などの制度を上手に活用しながら、貯蓄を中心に無理のない範囲で備えておくことです。そして、費用の負担や介護の希望について、元気なうちに家族で話し合っておくことが、金銭面でも気持ちの面でも大きな安心につながります。まずはできることから、少しずつ準備を始めてみてください。
ご注意:本記事の金額はすべて一般的な目安であり、実際の費用は要介護度・地域・所得・利用するサービスによって異なります。また、公的介護保険の自己負担割合や各種制度の内容は、現行制度を前提に解説していますが、今後見直される可能性があります。具体的な手続きや最新の制度内容については、お住まいの市区町村の窓口や地域包括支援センター、ケアマネジャーなどにご確認ください。本記事は特定の金融商品・保険商品への加入を推奨するものではありません。
