家族信託とは?仕組み・費用・メリットと成年後見との違いをわかりやすく解説

「親が認知症になったら、預金の引き出しや実家の売却ができなくなるかもしれない」——そんな不安を感じる方が増えています。判断能力が低下すると、本人名義の預金や不動産は事実上凍結され、家族であっても自由に動かせなくなることがあります。こうした「資産凍結」を防ぎ、元気なうちから信頼できる家族に財産の管理や承継を任せられる仕組みが「家族信託(民事信託)」です。

この記事では、家族信託の仕組みや費用、メリット・デメリット、成年後見制度との違いまで、50代〜70代のご本人とご家族に向けてやさしく解説します。制度の全体像をつかむための目安としてお役立てください。

家族信託(民事信託)とは

家族信託とは、元気なうちに、自分の財産の管理や処分を信頼できる家族に託しておく契約のことです。「信託」というと銀行や投資信託を思い浮かべるかもしれませんが、家族の間で行うものを特に「民事信託」や「家族信託」と呼びます。

近年は高齢化にともなって認知症の方が増え、判断能力の低下による資産凍結が身近な問題として注目されています。家族信託は、その対策として信託法の改正をきっかけに広まってきた比較的新しい仕組みで、遺言や成年後見だけでは対応しきれなかった「生前の柔軟な財産管理」と「承継の指定」を、一つの契約でまかなえる点が評価されています。

家族信託には、主に次の3者が登場します。それぞれの役割を平易に整理すると、次のとおりです。

  • 委託者(いたくしゃ):財産を託す人。多くは親が担います。
  • 受託者(じゅたくしゃ):財産を預かって管理する人。多くは子が担います。
  • 受益者(じゅえきしゃ):財産から生じる利益を受け取る人。多くは親自身がなります。

つまり、親が自分の財産を子に託し、その財産から得られる利益(家賃や生活費など)は引き続き親が受け取る、という形が一般的です。あらかじめ契約でルールを決めておくため、親の判断能力が低下した後も、定めた範囲内で子が財産を管理できるのが特徴とされています。

家族信託の基本の仕組み

具体的な例で考えてみましょう。お父さま(委託者=受益者)が、長男(受託者)に自宅と預金1,000万円を託すケースです。

契約後は、自宅と預金の名義は形式的に長男へ移ります。ただし、長男が自分のために使えるわけではありません。あくまで「父のために」管理する義務を負い、財産から得られる利益は父のものです。

たとえば、父が施設に入ることになり自宅が空き家になった場合、長男は信託契約にもとづいて自宅を売却できます。売却して得たお金も信託財産として、父の施設費用や生活費に充てられます。父の判断能力が低下していても、名義がすでに長男にあるため、手続きが途中で止まらないのです。

また、信託した財産は「信託財産」として、受託者個人の財産とは分けて管理されます。これを分別管理といい、たとえ受託者自身が借金を抱えても、原則として信託財産は差し押さえの対象になりにくいとされています。こうして本人(受益者)の財産をしっかり守れる点も、家族信託が選ばれる理由の一つです。

このように、「名義は子、利益は親」という形で、財産の管理を家族に引き継ぎながら本人の利益を守れるのが、家族信託の基本的な仕組みです。

家族信託でできること

家族信託を活用すると、次のようなことが可能になるとされています。

  • 認知症後の資産凍結を回避:判断能力が低下しても、受託者が信託財産の管理・処分を続けられます。
  • 不動産の管理・売却:実家の管理、修繕、賃貸、売却などを、あらかじめ決めた範囲で受託者が行えます。
  • 数世代先までの承継指定(受益者連続):「最初は妻、妻の死後は長男へ」といったように、二次相続以降の承継先まで指定できる場合があります。遺言では一代限りの指定が基本のため、これは家族信託ならではの特徴です。
  • 障害のある子の支援(親なきあと問題):親が元気なうちに信託を設定し、親の死後も子のために財産を管理・給付し続ける仕組みをつくれます。

たとえば、賃貸マンションを持つ親が受託者である子に管理を託しておけば、認知症になった後も、入居者との契約更新や修繕、家賃の管理などを子が滞りなく続けられます。オーナーの判断能力低下によって賃貸経営が止まってしまうリスクを、あらかじめ避けられるわけです。

これらは、本人の希望や家族構成に応じて契約内容を柔軟に設計できる点が魅力とされています。どこまでできるかは契約の作り方によって変わるため、目安としてご理解ください。

成年後見・遺言との違い

家族信託とよく比較されるのが、成年後見制度(法定後見・任意後見)と遺言です。おおまかな違いを整理すると、次の表のようになります。

制度開始時期柔軟性財産管理承継指定費用の目安
家族信託契約時(元気なうち)高い契約で定めた範囲可能(受益者連続も)初期費用は高め・以後は原則低め
法定後見判断能力の低下後低い(裁判所が監督)本人の財産保護が中心不可後見人への継続報酬が発生することが多い
任意後見契約後、判断能力の低下時中程度契約範囲+監督人の関与不可監督人報酬などが発生
遺言死亡後に効力生前の管理は不可可能(原則一代限り)作成費用は比較的低め

成年後見制度について詳しくは、成年後見制度の申立て認知症に備える財産管理もあわせてご覧ください。

家族信託は「生前の柔軟な財産管理」と「承継の指定」を両立できる点で、後見や遺言とは異なる役割を持つとされています。ただし、後述するように身上監護(介護や医療の契約など)は家族信託ではカバーできないため、状況によっては後見制度との併用が検討されます。

家族信託のメリット

  • 元気なうちから始められる:判断能力があるうちに契約するため、本人の意思を反映しやすいとされています。
  • 柔軟な財産管理・運用:契約で定めれば、不動産の売却や組み替え、賃貸経営なども受託者が続けられます。
  • 裁判所の関与・継続報酬が原則不要:法定後見のような家庭裁判所の監督や、専門職後見人への継続的な報酬が基本的に発生しません。
  • 承継先を細かく指定できる:受益者連続型により、二次相続以降まで見据えた承継設計が可能な場合があります。

さらに、口座の凍結によって家族が生活費や医療費の支払いに困る、といった事態を避けやすくなる点も見逃せません。判断能力が低下してから成年後見を申し立てると、利用開始まで数か月かかることもありますが、家族信託ならあらかじめ備えておけるため、いざというときに慌てずに済むとされています。

これらの理由から、不動産をお持ちの方や、承継の道筋を早めに決めておきたい方に選ばれることがあります。

家族信託のデメリット・注意点

一方で、家族信託には次のような注意点もあります。導入前に必ず確認しておきましょう。

注意点内容
初期費用が高め契約設計や公正証書の作成、登記などで、まとまった初期費用がかかる傾向があります。
受託者の負担と信頼が前提財産を管理する受託者には帳簿づけや分別管理などの義務があり、家族の信頼関係が欠かせません。
身上監護はできない介護・医療などの契約(身上監護)は家族信託の対象外で、必要に応じて後見制度が求められます。
税務が複雑損益通算の制限など信託特有の税務ルールがあり、専門的な判断が必要になります。
対応できる専門家が限られる家族信託に精通した専門家はまだ多くなく、依頼先選びが重要とされています。

特に税務面では、信託した不動産から赤字が出ても、ほかの所得と相殺(損益通算)できないなどの制限があります。収益物件を信託する場合は、税理士にも相談しながら慎重に設計することがすすめられています。

これらは家族の状況によって影響が異なります。判断に迷う場合は、司法書士・弁護士・税理士などの専門家に相談することが大切です。

家族信託にかかる費用の目安

家族信託にかかる費用は、財産の内容や額、依頼先によって幅があります。あくまで一般的な目安として、次のような費用が挙げられます。

  • 専門家へのコンサルティング報酬:信託財産の評価額に応じて設定されることが多く、財産額の1%程度が一つの目安とされることがあります(最低額が定められる場合もあります)。
  • 信託契約書の公正証書作成費用:公証役場の手数料として、数万円程度が目安とされています。
  • 不動産の信託登記費用:登録免許税(固定資産税評価額に応じて計算)や、司法書士への報酬がかかります。
  • その他:必要に応じて、税理士報酬や信託監督人への報酬などが発生する場合があります。

たとえば数千万円規模の財産を信託する場合、初期費用として数十万円〜100万円程度になるケースもあるとされますが、これはあくまで目安であり、実際の金額は個別の事情で大きく変わります。

費用が高いと感じるかもしれませんが、成年後見制度を利用した場合は、専門職後見人への報酬が本人が亡くなるまで毎年発生することもあります。長い目で見ると、初期費用はかかっても家族信託のほうが総額を抑えられるケースもあるとされています。どちらが適しているかは財産の内容や期間によって異なるため、正確な見積もりは依頼を検討している専門家に確認しましょう。

家族信託の始め方

家族信託は、おおむね次のような流れで進めるとされています。

  1. 家族で話し合う:誰に何を託すのか、目的(認知症対策、承継など)を家族で共有します。信託は家族の合意が土台になります。
  2. 専門家に相談する:家族信託に詳しい司法書士・弁護士などに相談し、契約内容を設計します。
  3. 信託契約書を公正証書で作成する:トラブルを防ぐため、公証役場で公正証書として作成するのが一般的です。
  4. 名義変更・口座開設を行う:不動産は信託登記を行い、預金は「信託口口座」を開設して管理します。

契約書の作成から登記、口座開設まで、家族信託の準備には数週間から数か月ほどかかることもあります。本人の判断能力がしっかりしているうちに進める必要があるため、「まだ元気だから」と先延ばしにせず、気になった段階で情報収集や相談を始めておくと安心です。

家族信託が向いているケース

次のような場合には、家族信託の活用が検討されることがあります(あくまで目安です)。

  • 認知症が心配で、実家などの不動産をお持ちの方
  • 賃貸アパートなどの収益物件を持ち、管理を続けたい方
  • 二次相続以降の承継先まで、自分の希望で決めておきたい方
  • 障害のあるお子さんがいて、親なきあとの生活を支えたい方

特に、財産の中に不動産が含まれる方は、認知症による売却・管理の停止が起こりやすいため、家族信託を検討する価値があるとされています。逆に、財産が預金のみで金額も大きくない場合や、身上監護を重視したい場合は、後見制度など別の方法が向くこともあります。どの制度が合うかは、おひとりさまの終活なども参考にしつつ、専門家と一緒に検討するとよいでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 家族信託の費用はいくらくらいかかりますか?
A. 財産の額や内容、依頼先によって異なりますが、初期費用として数十万円〜100万円程度になるケースもあるとされています。あくまで目安のため、正確な金額は専門家にご確認ください。

Q. 家族信託と成年後見は、どちらがよいですか?
A. 目的によって異なります。柔軟な財産管理や承継の指定を重視するなら家族信託、介護・医療の手続き(身上監護)も必要なら後見制度が向くとされています。両方を併用することもあります。

Q. 家族信託は誰に頼めばよいですか?
A. 家族信託に詳しい司法書士や弁護士に相談するのが一般的です。税務が絡む場合は税理士とも連携します。実績のある専門家を選ぶことが大切とされています。

Q. 親が認知症になってからでも家族信託はできますか?
A. 家族信託は本人に十分な判断能力があることが前提のため、認知症が進んだ後は契約が難しくなるとされています。その場合は成年後見制度の利用が検討されます。早めの準備が大切です。

Q. 遺言書があれば家族信託は不要ですか?
A. 遺言は原則として亡くなった後に効力を持ち、生前の財産管理はできません。生前の認知症対策も行いたい場合は、家族信託が選択肢になります。目的に応じて遺言書の書き方とあわせて検討しましょう。

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まとめ

家族信託(民事信託)は、元気なうちに信頼できる家族へ財産の管理や承継を託しておく仕組みです。認知症による資産凍結を防ぎ、不動産の管理・売却や、数世代先までの承継指定まで、柔軟に設計できる点が大きな特徴とされています。

一方で、初期費用が高めであることや、身上監護はできないこと、税務が複雑なことなど、注意すべき点もあります。ご家族の状況によって最適な方法は異なります。本記事は制度理解の目安としてご活用いただき、実際に検討される際は、司法書士・弁護士・税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。

※本記事は制度の一般的な解説であり、個別の法律・税務相談に代わるものではありません。制度の内容や費用は改正・見直しされる場合があります。具体的な手続きや判断については、必ず司法書士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。