よくある相続トラブルと対策|「争族」を防ぐために元気なうちにできること

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「相続なんて、うちには関係ない」「財産らしい財産もないから、もめようがない」——そんなふうに思っていらっしゃる方は少なくありません。ところが実際には、ごく普通のご家庭でこそ相続をめぐる争いが起こりやすいとされています。仲の良かった兄弟姉妹が、親の死をきっかけに口をきかなくなってしまう。そんな悲しい「争族(そうぞく)」は、決して資産家だけの話ではないのです。この記事では、よくある相続トラブルの例と、その原因、そして元気なうちにできる対策を、50〜70代の方とそのご家族に向けてやさしく解説します。大切なご家族が争わずに済むよう、今できる備えを一緒に考えていきましょう。

相続トラブルは他人事ではない

「もめるのは、たくさん財産がある家だけ」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、家庭裁判所で扱われる遺産分割事件の多くは、実は遺産額が比較的少ない層で起きているとされています。相続財産が数千万円以下、つまり「持ち家と多少の預貯金」という、どこにでもある普通のご家庭こそが、争いの典型例なのです。

司法統計などでも、遺産分割をめぐる争いは特別に裕福な家庭に限らず、幅広い層で起きていることがうかがえるとされています。「財産が少ないからもめない」のではなく、「少ないからこそ、一つひとつの取り分に敏感になりやすい」という面があるのです。だからこそ、金額の大小にかかわらず、どのご家庭にも備えが必要だといえます。

その理由の一つは、財産の中身にあります。財産の大部分が「自宅という一つの不動産」で占められていると、きれいに分けることが難しくなります。預貯金であれば人数で割ればよいのですが、家は物理的に切り分けられません。誰か一人が住み続ければ、ほかの相続人は自分の取り分をどう受け取るのか、という問題が生まれます。金額が大きくないからこそ、わずかな差が感情のもつれに直結してしまうこともあるのです。「うちは仲が良いから大丈夫」と思っていても、いざ具体的なお金の話になると、これまで見えなかった不満が表に出てくることは珍しくないとされています。

よくある相続トラブルの例

相続の現場で実際によく見られるトラブルを、ケースと背景に分けて整理してみました。ご自身のご家庭に当てはまるものがないか、確認してみてください。

よくあるケーストラブルになりやすい背景
不動産しかなく分けられない自宅が遺産の大半を占め、現金が少ない。誰が家を継ぐか、他の相続人への支払いをどうするかでもめやすい。
一部の人が介護や同居をしていた親の面倒を見た人が「多くもらって当然」と考える一方、他の相続人は納得しにくい。いわゆる「寄与分」をめぐる対立。
生前にたくさんもらった人がいる結婚資金や住宅資金など、生前の贈与(特別受益)が考慮されず、不公平感が残る。
遺言がない・内容に不満がある亡くなった方の意思がわからず、全員の話し合いが必要になる。遺言があっても、特定の人に偏っていると反発を招く。
使い込みの疑いがある親と同居していた人が、生前に預金を引き出していたのではないかと疑われる。証拠がなく水掛け論に。
連絡の取れない相続人がいる疎遠な兄弟や前妻の子など、所在のわからない相続人がいると、話し合いそのものが進まない。
認知症の相続人がいる相続人の中に判断能力が低下した方がいると、そのままでは遺産分割協議ができない。

どのケースも、特別に珍しいものではありません。とくに「寄与分」や「特別受益」といった言葉は、平常時にはあまり意識されませんが、いざ相続が始まると急に大きな争点になります。寄与分とは、親の介護や家業の手伝いなどで財産の維持・増加に特別に貢献した人が、その分を上乗せして受け取れる制度とされています。また、他の相続人に不公平だと感じられる場合には、遺留分という最低限の取り分をめぐる主張が出てくることもあります。

なぜトラブルになるのか

相続でもめてしまう背景には、いくつかの共通した原因があるとされています。原因を知っておくことは、そのまま対策のヒントになります。

財産の内訳が不動産に偏っている——先にも触れたとおり、遺産の大半が自宅など分けにくい財産だと、公平に分割することが構造的に難しくなります。

感情のもつれ——相続は、お金の問題であると同時に、家族の歴史や感情の問題でもあります。「親に一番かわいがられていた」「自分だけ苦労させられた」といった長年の思いが、遺産分割の場で一気に噴き出すことがあります。

情報が共有されていない——どこにどんな財産があるのか、家族の誰も把握していないケースは非常に多いものです。通帳や保険証券の所在がわからず、財産の全体像が見えないままでは、話し合いは疑心暗鬼になりがちです。

思い込みや誤解——「長男だから多くもらえるはず」「介護したから全部もらえる」といった思い込みは、法律上の取り扱いと食い違うことが少なくありません。正しい知識がないまま自分の期待だけが先行すると、対立が深まってしまいます。

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トラブルを防ぐ生前の対策

争族を防ぐ最大のポイントは、財産を残す本人が「元気なうちに」準備をしておくことです。亡くなってからでは、できることが大きく限られてしまいます。ここでは、代表的な生前対策を紹介します。

  • 遺言書を残す——誰に何を渡すのかを、本人の意思としてはっきり示しておく。これが最も効果的な争族対策とされています。遺言書の書き方を確認し、形式の整った遺言を用意しておきましょう。
  • 財産を把握し、家族と共有する——預貯金・不動産・保険・借入などを一覧にまとめておくと、残された家族が困りません。
  • 分けやすい形に整理する——使っていない不動産を生前に整理したり、預貯金の比率を高めておいたりすることで、分割しやすくなります。
  • 生命保険で代償分割の資金を用意する——家を継ぐ人が、他の相続人にお金で埋め合わせる「代償分割」のための原資として、保険金を活用できます。
  • 家族で話し合っておく——元気なうちに「この家は誰に」「介護のことはどうする」と率直に話しておくだけでも、後の誤解を減らせます。

これらの対策は、一つだけでなく組み合わせることで効果が高まります。いきなりすべてを完璧にしようとせず、できるところから少しずつ始めるとよいでしょう。

遺言書とエンディングノートの活用

争族を防ぐうえで、遺言書とエンディングノートは車の両輪のような存在です。それぞれの役割の違いを理解して、上手に使い分けることが大切です。

遺言書は、財産を「誰に」「どれだけ」渡すかを法的な効力をもって定める書面です。形式に不備があると無効になってしまうため、書き方には注意が必要です。とくに公正証書遺言は、公証人が関わるため形式の不備が起きにくく、安心とされています。詳しくは遺言書の書き方のページもあわせてご覧ください。

一方、エンディングノートには法的な効力はありませんが、「なぜこのように財産を分けたのか」という気持ちや理由を、自分の言葉で伝えることができます。遺言書に「付言事項」として想いを添えることもできます。「長年介護してくれた○○にはこの家を。みんなで仲良く暮らしてほしい」——そうした一言があるだけで、残された家族の受け止め方は大きく変わることがあります。書き方に迷ったらエンディングノートの書き方を参考にしてみてください。

生命保険・生前贈与の活用

生命保険は、争族対策としてとても役立つ仕組みです。死亡保険金は原則として受取人固有の財産となり、遺産分割の対象外として扱われるため、確実に渡したい人へスムーズに残せるとされています。たとえば、自宅を継ぐ長男を受取人にしておけば、その保険金を使って他の兄弟へ代償分割の支払いができます。さらに、死亡保険金には相続税の非課税枠が設けられています。詳しくは生命保険の相続税非課税枠のページで確認できます。

生前贈与も、財産を計画的に渡していく方法の一つです。ただし、一部の人にだけ多くの贈与をしていると、後で「特別受益」として不公平だと主張される場合があります。誰に、いつ、いくら贈与したのかを記録に残し、できれば家族に説明しておくことで、後々の誤解を防ぎやすくなります。なお、贈与は「あげた」「もらった」という双方の意思と記録がそろっていることが大切です。口約束だけで済ませず、贈与契約書を交わしたり、振込の記録を残したりしておくとよいでしょう。贈与税や相続税の扱いは複雑なため、具体的な進め方は税理士に相談することをおすすめします。

認知症・おひとりさま特有の備え

近年とくに増えているのが、認知症や「おひとりさま」に関する相続の悩みです。これらは早めの備えがものを言う分野です。

認知症などで判断能力が低下すると、原則として遺言を書いたり、預金を動かしたり、不動産を売却したりすることが難しくなります。相続人の中に判断能力の低下した方がいる場合、そのままでは遺産分割協議が進められず、成年後見人を立てる必要が出てくることもあります。だからこそ、判断能力がしっかりしている「今」のうちに、遺言や財産の整理を進めておくことが大切です。任意後見や家族信託といった仕組みも選択肢になります。詳しくは認知症に備える財産管理のページをご覧ください。

また、配偶者や子どもがいない「おひとりさま」の場合、放っておくと財産が疎遠な親族に渡ったり、最終的に国庫に入ったりすることもあります。お世話になった人や希望する団体に財産を残したいなら、遺言書が欠かせません。身寄りがない方は、死後の手続きを任せる「死後事務委任契約」なども検討するとよいでしょう。

それでももめたときの解決の流れ

十分に備えていても、感情のもつれからトラブルになってしまうことはあります。もしもめてしまったときは、次のような流れで、冷静に第三者を入れながら進めていくのが一般的です。

  1. まずは話し合い(遺産分割協議)——相続人全員で、誰が何を受け取るかを話し合います。全員が合意すれば、遺産分割協議の内容を協議書にまとめて完了です。
  2. 弁護士に相談する——当事者だけでは感情的になりやすいものです。専門家に間に入ってもらうことで、冷静に整理できることがあります。
  3. 遺産分割調停——話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停委員が間に入り、双方の言い分を聞きながら合意を目指します。
  4. 審判——調停でも合意に至らないときは、裁判官が審判で分割方法を決めます。

大切なのは、こじれる前に早めに第三者の力を借りることです。感情のぶつかり合いが長引くほど、家族の関係は修復が難しくなります。「もう自分たちだけでは難しい」と感じたら、早い段階で弁護士などの専門家に相談しましょう。

よくある質問

遺言書があれば、もめずに安心ですか?

遺言書は非常に有効な対策ですが、それだけで万全とは限りません。形式に不備があると無効になったり、特定の人に極端に偏った内容だと、他の相続人から遺留分(最低限の取り分)を主張されたりすることがあります。内容のバランスや、想いを伝える付言にも配慮するとよいでしょう。

親を介護した分は、多くもらえますか?

介護などで財産の維持・増加に特別に貢献した場合、「寄与分」として上乗せを受けられる可能性があるとされています。ただし、通常の親子の助け合いの範囲を超える特別な貢献であることが求められ、認められるハードルは決して低くありません。日々の介護の記録を残しておくと、話し合いの際の助けになります。

親の預金の使い込みは、取り戻せますか?

生前に無断で引き出された預金は、状況によっては返還を請求できる場合があります。ただし、実際には「本人に頼まれて引き出した」などと反論され、証拠がないと水掛け論になりがちです。通帳の取引履歴などを確認し、金額が大きい場合は弁護士に相談することをおすすめします。

争族を防ぐために、まず何をすればよいですか?

まずは自分の財産を書き出して全体像を把握することから始めましょう。そのうえで、遺言書の作成、家族との話し合い、生命保険の活用などを、できるところから少しずつ進めていくのがおすすめです。元気なうちに手をつけることが何よりの近道です。

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まとめ

相続をめぐる「争族」は、資産家だけの特別な出来事ではなく、持ち家と預金があるごく普通のご家庭でこそ起こりやすいものです。不動産に偏った財産、感情のもつれ、情報の非共有、そして思い込み——こうした原因を知り、元気なうちに手を打っておくことが、大切な家族を争いから守る何よりの備えになります。遺言書の作成、財産の把握と共有、生命保険や生前贈与の活用、認知症への備え。どれも今日から少しずつ始められることばかりです。ご家族が笑顔で「ありがとう」と言い合える相続にするために、ぜひ一歩を踏み出してみてください。

※本記事は一般的な情報をわかりやすくまとめたものであり、個別の法律・税務上の判断を示すものではありません。寄与分・特別受益・遺留分の扱いや、遺言・後見・贈与の具体的な進め方など、細かな点や実際の手続きについては、弁護士・司法書士・税理士などの専門家にご相談ください。制度は改正されることがあります。