相続税は「財産を相続したら必ずかかる」というものではなく、一定の金額を超えた部分にかかる税金です。とはいえ、いざ計算しようとすると、基礎控除を引いたり、いったん法定相続分で分けて税率をかけたりと、少し独特な手順が必要になります。この記事では、相続税の計算方法を、税率表(速算表)の使い方や具体的な計算例もまじえながら、順を追ってわかりやすく解説します。数字はいずれも現行制度にもとづく目安です。実際の申告や納税にあたっては、税理士や最寄りの税務署にご確認ください。
相続税計算の全体像
相続税の計算は、大きく次のような流れで進みます。まずは全体像をつかんでおくと、一つひとつのステップが理解しやすくなります。
- 正味の遺産額(プラスの財産+みなし相続財産−非課税財産−債務・葬式費用)を求める
- 基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引き、課税遺産総額を出す
- 課税遺産総額を、いったん法定相続分どおりに分けたものと仮定する
- 分けた金額それぞれに税率をかけ、全員分を合算して「相続税の総額」を求める
- 相続税の総額を、実際に財産を取得した割合で各人に按分する
- 各人ごとに、配偶者の税額軽減などの控除を差し引いて納付税額を確定する
ポイントは、税率をかけるのが「実際の取り分」ではなく、いったん「法定相続分で分けた金額」だという点です。これにより、遺産の分け方によって相続税の総額が大きく変わらないよう配慮されています。少し回り道のように感じるかもしれませんが、この順番を守ることが正しい税額にたどり着く近道です。
なお、相続税の申告と納税には期限があり、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内が原則とされています。計算の流れとあわせて、スケジュールも意識しておくと安心です。それでは、各ステップを順に見ていきましょう。
ステップ1 遺産総額を求める
最初に、相続の対象となる財産をすべて洗い出し、「正味の遺産額」を計算します。ここでいう財産には、次のようなものが含まれます。
- プラスの財産…現金・預貯金、土地・建物などの不動産、株式や投資信託、自動車、貴金属など
- みなし相続財産…生命保険金や死亡退職金など、亡くなったことをきっかけに受け取る財産
一方で、次のものは遺産額から差し引いたり、非課税として扱ったりします。
- 非課税財産…生命保険金・死亡退職金それぞれの「500万円×法定相続人の数」までの部分、墓地・仏壇など
- 債務…住宅ローンや未払いの医療費、未納の税金などの借入れ
- 葬式費用…通夜・告別式にかかった費用など(香典返しや法要の費用は含みません)
これらを差し引いた金額が「正味の遺産額」です。不動産や株式は評価方法によって金額が変わるため、財産の評価は相続税計算のなかでも特に難しい部分とされています。
また、相続が始まる前の一定期間内に受けた生前贈与は、相続財産に加えて計算する扱いがあります。どこまでを遺産額に含めるかは判断が難しいこともあるため、贈与の記録が残っている場合や大きな贈与があった場合は、税理士や税務署に確認しておくと安心です。
ステップ2 基礎控除を引く
正味の遺産額が求められたら、そこから「基礎控除額」を差し引きます。基礎控除は、相続税がかかるかどうかの分かれ目となる大切な金額です。基礎控除額は次の式で計算します。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
たとえば法定相続人が「配偶者と子ども2人」の合計3人であれば、3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除額です。正味の遺産額がこの金額以下であれば、原則として相続税はかからず、申告も不要とされています。正味の遺産額から基礎控除額を引いた残りが「課税遺産総額」となり、これが実際に税率をかける対象になります。
法定相続人の数は基礎控除額を左右する重要な要素ですが、相続放棄をした人がいる場合や養子がいる場合など、数え方に注意が必要なケースもあります。基礎控除の詳しい考え方や早見表は、相続税の基礎控除の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
ステップ3 相続税の総額を計算
ここが相続税計算のいちばん独特な部分です。課税遺産総額が求められたら、実際の分け方とは関係なく、いったん「法定相続分どおりに分けた」と仮定して計算します。
- 課税遺産総額を、各相続人の法定相続分で按分する
- 按分した金額それぞれに、次の速算表の税率をかけ、控除額を引く
- 全員分の金額を合計する
こうして求めた合計が「相続税の総額」です。たとえば相続人が配偶者と子ども2人なら、法定相続分は配偶者2分の1、子どもそれぞれ4分の1です。課税遺産総額をこの割合で分け、それぞれに税率をかけて足し合わせます。
この仕組みは、遺産を多く受け取った人ほど高い税率が適用される一方で、分け方を変えても相続税の総額そのものは変わらないという特徴につながっています。実際に誰がいくら受け取るかは、この総額を計算したあとのステップ4で反映します。
相続税の速算表
相続税の税率は、取得する金額が大きくなるほど高くなる「超過累進税率」です。実際の計算では、下の速算表を使うと、税率をかけて控除額を引くだけで税額を求められます。
| 法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | ― |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
たとえば法定相続分に応じた取得金額が5,000万円の場合、5,000万円×20%−200万円=800万円が、その人の分の税額の目安になります。控除額は、超過累進税率の計算を簡単にするために設けられているものです。税率や控除額は現行制度にもとづくものであり、改正される場合があります。最新の内容は税務署や税理士にご確認ください。
ステップ4 各人の納付税額
相続税の総額が求められたら、今度はそれを「実際に財産を取得した割合」で各相続人に割り振ります。ここで初めて、遺産の分け方が反映されます。
- 相続税の総額を、各人が実際に取得した財産の割合で按分する
- 各人ごとに、配偶者の税額軽減や未成年者控除などの控除を差し引く
- 差し引いた後の金額が、その人が実際に納める相続税額になる
たとえば配偶者は「配偶者の税額軽減」により、法定相続分または1億6,000万円までの取得であれば相続税がかからないのが一般的です。このように、同じ相続でも、誰がどの財産を受け取るかによって最終的な納税額は変わってきます。遺産の分け方を検討する際は、この点も踏まえて考えると、家族全体での負担を見通しやすくなります。
計算例でわかる相続税
ここまでの流れを、簡単な数値例で確認してみましょう。あくまで概算の目安であり、実際は財産の評価や特例の適用によって金額が変わります。
【前提】正味の遺産額6,800万円、相続人は配偶者と子ども2人の合計3人。
- 基礎控除額=3,000万円+600万円×3人=4,800万円
- 課税遺産総額=6,800万円−4,800万円=2,000万円
- 法定相続分で按分…配偶者1,000万円、子どもそれぞれ500万円
- 税率適用…配偶者1,000万円×10%=100万円、子ども500万円×10%=50万円(2人で100万円)
- 相続税の総額=100万円+50万円+50万円=200万円
この200万円を、実際の取得割合で按分します。仮に法定相続分どおりに分けた場合、配偶者100万円・子ども50万円ずつとなりますが、配偶者は税額軽減により多くの場合0円になります。結果として、このケースで実際に納めるのは子ども2人分の合計100万円程度が目安です。実際の相続では財産の種類や評価、特例の有無によって金額が変わりますので、あくまで計算の流れをつかむための一例としてご覧ください。
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使える主な控除・特例
相続税には、負担を軽くするためのさまざまな控除や特例が用意されています。代表的なものを見ておきましょう。
- 配偶者の税額軽減…配偶者が取得した財産のうち、法定相続分または1億6,000万円までは相続税がかからない制度。詳しくは配偶者の税額軽減をご覧ください。
- 小規模宅地等の特例…自宅の土地などについて、一定の要件を満たすと評価額を最大80%減額できる制度。詳しくは小規模宅地等の特例で解説しています。
- 未成年者控除…相続人が未成年の場合、一定額を税額から差し引ける制度
- 障害者控除…相続人が障害者の場合、一定額を税額から差し引ける制度
このほか、10年以内に続けて相続があった場合の相次相続控除や、生前に贈与税を納めていた場合の贈与税額控除などもあります。これらの特例は、適用すると税額が大きく下がる一方で、それぞれ細かな要件があります。なかには、特例を使った結果として相続税が0円になる場合でも、申告そのものは必要になるものもあります。利用を検討する際は、要件を満たすかどうかを含めて税理士や税務署に確認しておくと安心です。
自分で計算するときの注意点
相続税は、流れさえつかめばおおよその金額を自分で見積もることもできます。ただし、次の点には注意が必要です。
- 財産の評価が難しい…特に土地や非上場株式は評価方法が複雑で、専門的な知識が必要になることがあります
- 特例には要件がある…配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などは、要件を満たさないと使えません
- 法定相続人の数え方に注意…相続放棄や養子の有無によって、基礎控除や税額が変わることがあります
おおよその金額をまず知りたいときは、相続税ざっくり計算機のような計算ツールを使うと便利です。そのうえで、実際の申告が必要になりそうな場合や、財産に不動産・自社株が多い場合などは、早めに税理士へ相談することをおすすめします。相続税の申告には期限があるため、財産の把握や評価に時間がかかりそうなときほど、早めに動き出すことが大切です。
よくある質問
Q. 相続税はいくらから、かかりますか?
A. 正味の遺産額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えた場合に、超えた部分に対してかかります。たとえば法定相続人が3人なら4,800万円が目安で、これ以下であれば原則として相続税はかからず、申告も不要とされています。
Q. 相続税の税率は何%ですか?
A. 取得する金額に応じて10%から55%まで、段階的に高くなります。1,000万円以下の部分は10%、6億円を超える部分は55%です。実際の計算では速算表を使い、税率をかけて控除額を引きます。
Q. 相続税は自分で計算できますか?
A. 流れを理解すれば、おおよその金額を自分で見積もることは可能です。ただし土地などの財産評価や特例の適用は専門的で、正確な申告額の算出は難しい場合があります。概算は計算ツールで、正式な申告は税理士に依頼すると安心です。
Q. どんな控除が使えますか?
A. 配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例、未成年者控除、障害者控除などがあります。特に配偶者の税額軽減は効果が大きく、配偶者は法定相続分または1億6,000万円まで相続税がかからないのが一般的です。いずれも要件があるため、事前の確認が必要です。
Q. 申告や納税の期限はいつまでですか?
A. 相続税の申告と納税は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内が原則とされています。期限を過ぎると加算税や延滞税がかかることがあるため、早めの準備が大切です。詳しくは税務署にご確認ください。
税理士に相談したいとき
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「相続税がかかりそう」と出た方へ
実際の相続税は、財産の評価方法や特例(小規模宅地・配偶者控除など)の使い方で大きく変わります。「税理士ドットコム」なら、相続に強い税理士を無料で紹介してもらえます。申告が必要かどうかの相談だけでも可能です。
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まとめ
相続税の計算は、①正味の遺産額を求める→②基礎控除を引く→③法定相続分で分けて税率をかけ総額を出す→④実際の取り分で按分し控除を引く、という流れで進みます。少し複雑に見えますが、一つずつ順を追えば全体像はつかめます。まずは基礎控除額を計算し、遺産がそれを超えそうかどうかを確認するところから始めてみましょう。数字はいずれも現行制度をもとにした目安です。実際の申告や納税額については、必ず税理士や税務署にご確認ください。
※本記事は現行制度をもとにした一般的な情報であり、個別の税額を保証するものではありません。税制は改正される場合があります。具体的な計算・申告については、税理士や最寄りの税務署にご相談ください。
