相続の単純承認・限定承認・相続放棄の違い|借金の調べ方と3か月の判断を解説

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相続では、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や保証債務などのマイナスの財産も一緒に引き継ぐことになります。もし故人(被相続人)に借金があった場合、相続人がその返済義務を負うことも考えられます。そこで現行制度では、財産をどのように引き継ぐかについて「単純承認」「限定承認」「相続放棄」という3つの選択肢が用意されています。この記事では、3つの違いや、借金・財産の調べ方、判断のカギとなる「3か月」という期間について、50〜70代の方とそのご家族に向けてやさしく解説します。制度の細かな判断は、司法書士・弁護士・家庭裁判所にご相談いただくことをおすすめします。

相続の3つの選択肢とは

相続人は、被相続人の財産を「どう引き継ぐか」を選ぶことができます。大きく分けると次の3つです。プラスの財産とマイナスの財産(借金)の引き継ぎ方、手続き、期限を一覧にまとめました。まずは全体像をつかんでおきましょう。

選択肢プラスの財産マイナスの財産(借金)おもな手続き期限
単純承認すべて引き継ぐすべて引き継ぐ原則、特別な手続きは不要期限内に手続きをしなければ成立
限定承認引き継ぐプラスの財産の範囲内でのみ引き継ぐ相続人全員で家庭裁判所へ申述原則3か月以内
相続放棄引き継がない引き継がない家庭裁判所へ申述(一人でも可)原則3か月以内

限定承認と相続放棄は、いずれも家庭裁判所での手続きが必要で、原則として相続の開始を知った日から3か月以内に判断する必要があります。一方の単純承認は、特別な手続きをしなくても成立する点が大きな違いです。それぞれ、順番に見ていきましょう。

単純承認とは(すべてを引き継ぐ原則の形)

単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産(借金)も、すべてそのまま引き継ぐ方法です。相続では最も基本的な形とされており、多くの方がこの単純承認によって財産を引き継いでいます。特別な申し立ては原則として必要ありません。

注意したいのは、次のような場合に単純承認をしたものとみなされる、という点です。現行制度では、こうしたケースにあてはまると、あとから相続放棄や限定承認を選びにくくなるとされています。

  • 相続の開始を知った日から原則3か月以内に、限定承認も相続放棄もせず、期間が過ぎてしまったとき
  • 相続財産の全部または一部を処分(使ったり、売ったりなど)したとき
  • 相続財産を故意に隠したり、私的に消費したりしたとき

たとえば、故人の預貯金を引き出して自分のために使う、遺品を売却するといった行為は「財産に手をつけた」と受け取られ、単純承認とされる可能性があります。借金の有無がはっきりしないうちは、財産に手をつける前に専門家へ相談すると安心です。

限定承認とは(プラスの範囲内で借金を引き継ぐ)

限定承認とは、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産(借金)を引き継ぐ方法です。たとえば預貯金や不動産などのプラスの財産が1,000万円あり、借金が1,500万円あった場合でも、限定承認をすれば返済の負担は原則としてプラスの財産の1,000万円までにとどまり、それを超える分の返済義務は負わない、とされています。逆にプラスの財産の方が多ければ、借金を清算したあとに残った財産を受け取ることができます。

限定承認の大きな特徴は、相続人全員が共同で家庭裁判所へ申述しなければならない点です。一人だけで手続きすることはできません。そのため、だれが相続人にあたるのかをあらかじめ確認しておくことが大切です。だれが法定相続人になるのかは法定相続人の範囲と順位の記事もあわせてご覧ください。

使いどころとして代表的なのは、借金がどれくらいあるか分からないケースです。「プラスの財産もそれなりにありそうだが、借金の総額がはっきりしない」といった場合に、限定承認であれば想定外の借金を背負うリスクを抑えつつ、財産が残れば受け取れる、という備え方ができるとされています。

相続放棄とは(一切を引き継がない)

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がない方法です。家庭裁判所へ申述して認められると、はじめから相続人でなかったものとして扱われるとされています。借金が明らかに多い場合などに選ばれることが多い方法です。相続放棄は、限定承認と違って相続人が一人だけでも手続きできる点が特徴です。

ただし、自分が放棄すると、次の順位の人が新たに相続人になることがあります。放棄を検討する際は、ほかの親族への影響も含めて考えておくと安心です。手続きの流れや必要書類などの詳細は、相続放棄の手続きと期限の記事でくわしく解説しています。

判断のカギ「3か月の熟慮期間」

限定承認や相続放棄を選ぶには、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った日」から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。この3か月は「熟慮期間」と呼ばれ、どの方法を選ぶかをじっくり考えるための期間とされています。

起点となる「相続の開始を知った日」とは、たとえば親が亡くなったことを知った日などを指します。相続財産の内容がまったく分からない状態であっても、この日から期間のカウントが始まる点に注意が必要です。まずは落ち着いて、どんな財産や借金がありそうかの手がかりを集めることから始めましょう。

この期間内に限定承認も相続放棄もしなければ、原則として単純承認をしたものとみなされ、借金も含めてすべてを引き継ぐことになります。3か月は意外と短く、葬儀や各種手続きに追われているうちに過ぎてしまうこともあります。早めに財産と借金のおおよそを把握しておくことが大切です。

なお、信用情報機関への開示は、申請してから結果が届くまでに一定の日数がかかることがあります。3か月という期間を考えると、借金の有無が気になる場合は思い立った時点で早めに請求しておくと安心です。開示のしかたは各機関の案内を確認するか、専門家に相談するとスムーズです。

借金や財産の調査に時間がかかり、3か月では判断できないという場合には、家庭裁判所に「熟慮期間の伸長(延長)」を申し立てる方法があります。認められれば期間を延ばせるとされていますが、期限が過ぎてからでは間に合わないことが多いため、難しいと感じたら早めに司法書士・弁護士や家庭裁判所へ相談しましょう。

借金・財産の調べ方

どの方法を選ぶかを判断するには、まず「プラスの財産」と「マイナスの財産(借金)」のおおよそを把握することが欠かせません。おもな調べ方を一覧にまとめました。

種類おもな調べ方
預貯金通帳・キャッシュカードや郵便物を確認し、取引のある金融機関へ残高証明書を請求する
不動産固定資産税の納税通知書や、市区町村の名寄帳、法務局の登記事項証明書で確認する
有価証券証券会社からの取引報告書や、証券保管振替機構への開示請求などで確認する
借金(負債)信用情報機関(JICC・CIC・KSC)への開示請求、督促状や契約書などの郵便物・書類の確認

借金の調べ方でとくに役立つのが、信用情報機関への開示請求です。銀行系のKSC(全国銀行個人信用情報センター)、消費者金融系のJICC、クレジット系のCICの3つに開示を請求すると、借入れやローンの状況を確認しやすくなるとされています。あわせて、自宅に届く郵便物(督促状・請求書・利用明細など)や契約書もていねいに確認しましょう。

見落としがちなのが「保証債務」です。故人が他人の借金の保証人・連帯保証人になっていた場合、その責任も相続の対象になることがあります。信用情報だけでは分かりにくいこともあるため、書類の中に保証契約に関するものがないか、注意して確認してください。

こうした調査には手間も時間もかかりますが、財産と借金の全体像がつかめてはじめて、単純承認・限定承認・相続放棄のどれが自分に合うかを落ち着いて判断できます。すべてを完璧に把握できなくても、「借金が多そうか、少なそうか」というおおよその見当をつけるだけでも、次の一歩を考える大きな手がかりになります。

限定承認のメリット・デメリット

限定承認は便利に見えますが、実際にはあまり多く利用されていないとされています。メリットとデメリットを整理しておきましょう。

おもなメリット

  • 借金がプラスの財産を上回っても、超えた分の返済義務を原則負わずに済む
  • 借金を清算したあとにプラスの財産が残れば、それを受け取れる
  • 自宅など残したい財産がある場合に、優先的に買い受けられる制度(先買権)を利用できることがある

おもなデメリット・注意点

  • 相続人全員が共同で申述する必要があり、一人でも反対すると利用できない
  • 財産の目録づくりや、債権者への公告・清算など、手続きが複雑で手間がかかる
  • 税務上「みなし譲渡所得税」が課される場合があり、思わぬ税負担が生じることがある

とくに手続きの複雑さや税金の取り扱いは、専門的な判断が必要になる場面が多いとされています。限定承認を検討する場合は、早い段階で司法書士・弁護士などの専門家に相談することを強くおすすめします。

どれを選ぶ?判断のポイント

3つのどれを選ぶかは、財産と借金の状況によって変わってきます。あくまで一般的な目安ですが、次のように整理すると考えやすくなります。

  • 借金が明らかに多いとき…相続放棄が選ばれることが多いとされています。
  • 借金の額がはっきりしないとき…まず調査を行い、限定承認を検討する余地があります。
  • プラスの財産が明らかに多いとき…単純承認でそのまま引き継ぐケースが一般的です。

ただし、これはあくまで目安です。実際には保証債務の有無、相続人どうしの関係、税金の取り扱いなど、さまざまな事情が関わってきます。判断に迷うときは、期限が来る前に司法書士・弁護士や家庭裁判所へ相談しましょう。

よくある質問(FAQ)

借金だけを相続しない方法はありますか?

プラスの財産は受け取り、借金だけを引き継がない、という都合のよい選び方は原則としてできません。借金を引き継ぎたくない場合は、財産もすべて引き継がない「相続放棄」か、プラスの範囲内でのみ借金を引き継ぐ「限定承認」を検討することになります。

限定承認は一人でできますか?

限定承認は、相続人全員が共同で家庭裁判所へ申述する必要があるとされています。一人だけで手続きすることはできません。全員の合意が得られない場合は、一人でも手続きできる相続放棄などを含めて、専門家に相談しながら検討するとよいでしょう。

3か月を過ぎたらどうなりますか?

原則として、3か月の熟慮期間内に限定承認も相続放棄もしなければ、単純承認をしたものとみなされ、借金を含めてすべてを引き継ぐことになるとされています。ただし、あとから予想外の借金が判明したなど、事情によっては例外が認められる場合もあります。期限が近い、または過ぎてしまったときは、早めに司法書士・弁護士へ相談してください。

借金はどうやって調べればよいですか?

信用情報機関(JICC・CIC・KSC)への開示請求が代表的な方法です。あわせて、自宅に届く督促状や請求書などの郵便物、契約書を確認しましょう。故人が保証人になっている「保証債務」は見つけにくいこともあるため、書類の中に保証契約がないか注意して確認することが大切です。

相続放棄と限定承認はどちらがよいですか?

借金が明らかに多いなら相続放棄、借金の額がはっきりせず財産も残りそうなら限定承認、というのが一般的な目安とされています。どちらも家庭裁判所での手続きが必要で、判断には専門的な知識が求められます。ご自身のケースでどちらが適しているかは、専門家に相談して決めることをおすすめします。

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まとめ

相続では、プラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。その引き継ぎ方には「単純承認(すべて引き継ぐ)」「限定承認(プラスの範囲内で借金を引き継ぐ)」「相続放棄(一切引き継がない)」の3つの選択肢があります。限定承認と相続放棄は、原則として相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があるため、まずは財産と借金のおおよそを早めに把握することが大切です。相続の全体像を知りたい方は、相続手続きの流れもあわせてご覧ください。

この記事は現行制度をもとにした一般的な解説であり、個別の事情によって取り扱いは異なります。実際の判断や手続きにあたっては、司法書士・弁護士・家庭裁判所などの専門家に必ずご相談ください。