相続税は、亡くなった方が残したすべての財産を合計し、その「評価額」をもとに計算されます。同じ財産でも、評価の方法によって金額が変わり、結果として納める税額も変わってきます。この記事では、不動産・上場株式・預貯金・生命保険金など、財産の種類ごとの評価の考え方を、50代〜70代の方とそのご家族に向けてやさしく解説します。専門的な判断が必要になる場面もあるため、あくまで目安としてお役立てください。
相続財産の評価の基本
相続財産の評価は、原則として「相続開始時=亡くなった日(死亡日)の時価」で行うのが基本とされています。時価といっても、財産の種類ごとに評価のルールが決められており、実務では国税庁が定める「財産評価基本通達」に沿って評価するのが一般的です。
この通達には、土地・建物・株式・預貯金など、さまざまな財産の評価方法が細かく示されています。すべての財産を売却して現金化するわけではないため、一定の基準に従って「もし今この財産を評価するといくらになるか」を計算していくイメージです。
相続財産には、預貯金や不動産のようなプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も含まれます。まずはプラスの財産をすべて洗い出し、それぞれを評価して合計し、そこから債務や葬式費用を差し引く、という流れで課税対象額を求めていきます。
評価額が確定したら、そこから基礎控除額などを差し引いて相続税の課税対象額を求めます。基礎控除額を超えなければ、相続税はかからず申告も原則不要とされています。財産の合計額から税額を計算する流れについては、相続税の計算方法もあわせてご覧ください。
財産別の評価方法の一覧
主な財産について、評価の考え方の目安を一覧にまとめました。実際の評価は個別の事情によって変わるため、あくまで大まかな目安としてご確認ください。財産の種類が多いほど評価にも手間がかかるため、早めに全体像をつかんでおくと安心です。
| 財産の種類 | 評価の考え方の目安 |
|---|---|
| 預貯金 | 死亡日の残高+既経過利子(解約したと仮定した場合の利子) |
| 現金 | 死亡日に手元にある金額(タンス預金も含む) |
| 上場株式 | 死亡日の終値など4つの価額のうち最も低い額 |
| 投資信託 | 死亡日に解約したと仮定して受け取れる金額が目安 |
| 土地 | 路線価方式(路線価×面積)または倍率方式 |
| 建物(家屋) | 固定資産税評価額と同じ |
| 生命保険金 | 受取額から非課税枠を差し引いた額 |
| 死亡退職金 | 受取額から非課税枠を差し引いた額 |
| ゴルフ会員権 | 取引相場の約7割が目安 |
土地の評価
土地の評価には、大きく「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあります。どちらの方式を使うかは、その土地の所在地によって決まっています。
路線価方式は、道路(路線)ごとに定められた1平方メートルあたりの価額(路線価)に、土地の面積を掛けて評価する方法です。市街地の多くはこの方式で評価します。路線価は国税庁のホームページ(路線価図・評価倍率表)で公開されており、毎年更新されます。
倍率方式は、路線価が定められていない地域で用いる方法で、その土地の固定資産税評価額に、地域ごとに決められた一定の倍率を掛けて評価します。
路線価×面積が基本ですが、土地の形状(間口が狭い、奥行きが長い、いびつな形など)や利用状況によって補正が入り、評価額が下がることもあります。反対に、角地など二つの道路に面している場合は評価が上がることもあります。また、同じ土地でも自分で使っているか、他人に貸しているかによって評価が変わる点にも注意が必要です。
また、被相続人が自宅や事業として使っていた土地などは、一定の要件を満たすと評価額を大きく減額できる場合があります。減額の割合が大きい制度なので、使えるかどうかで税額が大きく変わります。くわしくは小規模宅地等の特例をご覧ください。土地の評価は特に複雑なため、判断に迷う場合は税理士・税務署に確認することをおすすめします。
土地の評価額は現況(実際の利用状況)で判断されるのが原則です。登記上の地目が畑でも、実際に宅地として使っていれば宅地として評価するなど、登記の内容と現況が違う場合は現況が優先されます。田や畑、山林などは宅地とは別の基準で評価するため、土地の種類によって計算方法が変わる点にも注意しましょう。
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建物の評価
建物(家屋)は、原則として「固定資産税評価額」をそのまま使って評価するとされています。固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税の課税明細書や、市区町村で取得できる固定資産評価証明書で確認できます。土地のように複雑な計算は不要で、比較的わかりやすい財産といえます。
自分で住んでいた家や空き家はこの評価額がそのまま使われますが、他人に貸している「貸家」の場合は、借りている人の権利がある分、評価額が一定割合で減額されるのが一般的です。分譲マンションの一室も、建物部分は固定資産税評価額、土地部分は敷地全体を持ち分に応じて評価します。建築中の家屋は、かかった費用の一定割合で評価するなど、状況によって扱いが異なります。
上場株式・投資信託の評価
上場株式は、次の4つの価額のうち最も低い額で評価するのが原則とされています。
- 亡くなった日(死亡日)の終値
- 死亡した月の毎日の終値の平均
- その前月の毎日の終値の平均
- その前々月の毎日の終値の平均
つまり、亡くなった日の終値と、過去3か月それぞれの月平均を比べ、いちばん低い額を選べる仕組みです。株価は日々変動するため、相続人に不利になりすぎないよう配慮された評価方法といえます。証券会社に依頼すると、この評価に必要な「残高証明書」や参考資料を用意してもらえることが多いです。
投資信託は、死亡日に解約したと仮定した場合に受け取れる金額(基準価額をもとに、解約手数料や税金などを差し引いた額)が評価の目安になります。なお、上場していない株式(非上場株式)は評価がさらに複雑になるため、専門家に相談するのが一般的です。
預貯金・現金の評価
預貯金は、死亡日の残高で評価します。普通預金のように利子がわずかなものは残高がそのまま評価額になりますが、定期預金など利子が付くものは、死亡日時点で解約したと仮定したときに受け取れる利子(既経過利子)を残高に加えて評価するのが一般的です。
現金は、死亡日に手元にあった金額で評価します。注意したいのは、いわゆる「タンス預金」も相続財産に含まれ、申告の対象になるという点です。金融機関の口座に入っていないお金でも、申告から漏れると後日の税務調査で指摘されることがあります。複数の金融機関に口座がある場合は、残高証明書を取り寄せて漏れがないように確認し、手元の現金も忘れずに把握しておきましょう。
相続が始まったあとに、公共料金の引き落としや葬儀費用の支払いで口座からお金が動くこともあります。評価はあくまで死亡日時点の残高が基準になるため、その後の入出金と混同しないよう、死亡日の残高がわかる資料を残しておくと安心です。
生命保険金・退職金
被相続人が亡くなったことで受け取る生命保険金や死亡退職金は、民法上の相続財産ではありませんが、相続税の計算上は「みなし相続財産」として課税対象に含まれます。受取人が指定された財産のため、遺産分割の対象にはなりませんが、税金の計算には関係してくる点に注意しましょう。
ただし、これらには非課税枠が設けられており、生命保険金・死亡退職金それぞれについて「500万円×法定相続人の数」までは相続税がかからないとされています。たとえば法定相続人が3人であれば、生命保険金は1,500万円までが非課税です。
生命保険金の非課税枠の考え方や、受取人による違いについては、生命保険の相続税非課税枠でくわしく解説しています。
債務・葬式費用の控除
相続財産の評価額を合計したあとは、被相続人が残した債務(マイナスの財産)や葬式費用を差し引くことができます。これを「債務控除」といい、課税対象額を減らす大切な手続きです。
差し引けるものの目安としては、借入金(住宅ローンなど)、未払いの医療費、亡くなった時点で確定している未払いの税金(固定資産税・住民税など)が挙げられます。
葬式費用も控除の対象で、通夜・葬儀にかかった費用やお寺へのお布施、火葬・埋葬にかかった費用などが含まれます。一方で、香典返しの費用や、初七日以降の法要にかかる費用、墓地・墓石の購入費用などは、原則として控除の対象外とされています。どこまでが対象になるか迷う場合は、領収書を保管したうえで税理士・税務署に確認すると安心です。
評価を間違えやすいポイント
財産の評価では、次のような点で間違いが起こりやすいとされています。金額が大きくなりやすい土地や、見落としがちな預金は特に注意が必要です。
- 土地の評価が複雑:形状や利用状況による補正、複数の道路に接する土地などは評価が難しく、過大にも過少にもなりやすい
- 特例の適用漏れ:小規模宅地等の特例など、使えるはずの制度を知らずに申告してしまう
- 名義預金:名義は家族でも、実質的に被相続人のお金だった預金は相続財産に含める必要がある
- 生前贈与の扱い:一定期間内の贈与は相続財産に加えて計算する場合がある
これらは税額に大きく影響することがあります。評価を誤ると、納めすぎたり、逆に申告漏れを指摘されたりする原因になります。少しでも不安がある場合は、早めに税理士・税務署に相談することをおすすめします。
財産の評価は、相続税の申告だけでなく、遺産分割の話し合いの土台にもなります。誰が何をどれだけ受け取るかを公平に決めるためにも、まずは財産をもれなく洗い出し、種類ごとに評価しておくことが大切です。
よくある質問
相続財産の評価について、よく寄せられる質問をまとめました。
Q. 土地はどうやって評価するの?
A. 市街地では路線価方式(路線価×面積を基本に補正)、路線価がない地域では倍率方式(固定資産税評価額×倍率)で評価するのが一般的です。形状や利用状況で評価額が変わるため、複雑な土地は専門家への相談が安心です。
Q. タンス預金も申告しないといけないの?
A. はい。口座に入っていない手元の現金(タンス預金)も相続財産に含まれ、申告の対象です。申告漏れは税務調査で指摘されることがあるため、忘れずに把握しておきましょう。
Q. 借金や葬式費用は差し引けるの?
A. 借入金や未払いの税金などの債務、通夜・葬儀にかかった葬式費用は差し引けます。ただし香典返しや初七日以降の法要費用、墓石の購入費用などは、原則として控除の対象外とされています。
Q. 財産の評価は自分でもできる?
A. 預貯金や上場株式など比較的シンプルな財産は、ご自身でも評価しやすいでしょう。一方、土地の評価や特例の判断は複雑なため、金額が大きい場合や不安がある場合は税理士に依頼するのが安心です。
Q. 評価額はいつの時点で計算するの?
A. 原則として相続開始時=亡くなった日(死亡日)の時価で評価します。財産の種類ごとに評価のルールが決められています。
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まとめ
相続税は、財産ごとに評価額を求め、その合計をもとに計算されます。預貯金や上場株式は比較的わかりやすい一方、土地の評価や各種特例の適用は複雑で、税額に大きく影響します。
まずは、どんな財産がいくらになるのかを一覧で把握することが第一歩です。そのうえで、債務や葬式費用を差し引き、非課税枠や特例が使えるかを確認していきましょう。おおよその相続税額を知りたい方は、相続税ざっくり計算機で目安を確認してみるとよいでしょう。
なお、本記事の内容は現行制度に基づく一般的な目安であり、個別の事情によって評価や税額は変わります。実際の申告にあたっては、必ず税理士・税務署に確認してください。
