2024年4月から、相続した不動産の名義変更である「相続登記」が義務化されました。これまで相続登記には申請の期限がなく、手続きをしないまま放置される土地や建物が全国で増え続け、持ち主のわからない「所有者不明土地」が大きな社会問題となっていました。その面積は九州本島に匹敵するともいわれ、公共事業や災害復旧の妨げになる、周辺の管理ができず荒れてしまうといった弊害が指摘されてきました。こうした状況を改善するために設けられたのが、相続登記の義務化です。この記事では、いつまでに何をすればよいのか、相続登記の意味や手続きの流れ、必要書類、費用の目安、そして手続きを怠った場合の過料まで、50代〜70代の方とそのご家族に向けて、やさしく整理して解説します。
相続登記とは
相続登記とは、亡くなった方(被相続人)が所有していた土地や建物などの不動産の名義を、相続人へ変更する手続きのことです。正式には「相続による所有権移転登記」といい、不動産の所在地を管轄する法務局に申請して、登記簿(登記記録)に記録された名義を書き換えます。登記簿は、その不動産の所有者が誰であるかを公に示すための帳簿で、誰でも取得して確認することができます。
不動産の名義が亡くなった方のままだと、その不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりすることができません。名義人はすでに亡くなっているため、法律上の手続きを進められないからです。また、名義を変えないまま次の世代がさらに相続を重ねていくと、権利を持つ人がねずみ算式に増えてしまい、いざ手続きをしようとしたときに、遠い親戚まで含めた大人数で話し合わなければならない、という事態にもなりかねません。相続登記は、不動産を正しく引き継ぎ、後々のトラブルを防ぐための大切な手続きといえます。
2024年4月からの義務化のポイント
2024年(令和6年)4月1日から、相続登記が法律で義務づけられました。これまでは「した方がよい手続き」でしたが、これからは「しなければならない手続き」になったという点が、大きな変更点です。主なポイントは次のとおりです。
- 相続(遺言による取得を含む)によって不動産を取得したことを知った日から、3年以内に相続登記を申請する必要があります。
- 遺産分割協議で不動産の取得者が決まった場合は、その協議が成立した日から3年以内に、内容に沿った登記を申請します。
- 正当な理由がないのに申請を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。
- 2024年4月より前に発生した相続も、義務化の対象です。この場合は、施行日である2024年4月1日から3年以内(原則2027年3月31日まで)が期限とされています。
ここでいう「正当な理由」とは、相続人が極めて多く戸籍などの書類を集めるのに時間がかかる場合や、相続人の間で遺産をめぐる争いがある場合、相続人自身が重い病気で手続きが難しい場合などが想定されています。自分のケースが「正当な理由」にあたるかどうか判断に迷うときは、自己判断せず、法務局や司法書士に早めに相談すると安心です。
今回の義務化は、不動産登記法などの改正によって実現したものです。背景には、相続が起きても登記がされないまま長い年月がたち、いざ土地を活用しようとしても所有者を特定できない、連絡が取れないというケースが全国で積み重なってきた事情があります。義務化によって名義の変更を早めに促し、こうした所有者不明土地の発生を防ぐことがねらいとされています。ルールを正しく知っておくことは、ご自身の土地や建物を守ることにもつながります。
いつまでに何をする?
義務化のルールは、相続がいつ発生したかによって、期限の考え方が少し変わります。ご自身やご家族のケースがどれにあたるか、下の表で目安を確認してみましょう。いずれの場合も「取得を知った日」や「施行日」が起算点となり、そこから3年以内が一つの区切りになります。
| 対象 | 登記申請の期限 | 過料の目安 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日以降に発生した相続 | 取得を知った日から3年以内 | 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料 |
| 2024年3月31日以前の相続(施行前) | 施行日(2024年4月1日)から3年以内=原則2027年3月31日まで | 同上 |
| 遺産分割が後から成立した場合 | 分割が成立した日から3年以内 | 同上 |
3年という期間は一見長く感じますが、戸籍を集めたり相続人の間で話し合ったりしているうちに、あっという間に過ぎてしまうこともあります。期限を意識して、早めに動き出すことが大切です。
相続登記の手続きの流れ
相続登記は、おおむね次のような流れで進みます。慣れない手続きに感じられるかもしれませんが、一つずつ順を追って進めれば、落ち着いて対応できます。
- 相続人の確定…被相続人の出生から死亡までの戸籍をたどり、誰が相続人になるのかを確定します。思いがけない相続人が判明することもあるため、この確認はとても重要です。
- 遺産分割協議または法定相続分の確認…不動産を誰が引き継ぐかを、相続人全員で話し合って決めます(遺産分割協議)。遺言書がある場合は、その内容に従います。法定相続分どおりに全員の共有とする方法もあります。
- 必要書類の収集…戸籍謄本や住民票、固定資産評価証明書など、申請に必要な書類を市区町村役場などで集めます。
- 登記申請書の作成・法務局へ申請…集めた書類をそろえ、登記申請書を作成して、不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。窓口のほか、郵送やオンラインでの申請も可能です。
相続手続きは、登記だけでなく、預貯金や各種名義変更など多岐にわたります。全体の進め方については、相続手続きの流れもあわせてご覧いただくと、全体像がつかみやすくなります。
必要書類と費用の目安
相続登記に必要となる主な書類は、次のとおりです。ケースによって追加で必要になる書類もありますが、基本となるのはこれらです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む一式)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票(本籍地の記載があるもの)
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 固定資産評価証明書(登録免許税の計算に使います)
- 遺産分割協議書と、相続人全員の印鑑証明書(協議で分ける場合)
費用の中心となるのが登録免許税で、固定資産評価額×0.4%(1000分の4)が目安です。たとえば評価額が1000万円の不動産なら、約4万円が目安になります。このほか、戸籍や住民票などの取得手数料が数千円程度かかります。司法書士に依頼する場合は、これらに加えて報酬として6万〜10万円程度が加わるのが一般的な目安です(相続人の数や不動産の件数、事案の複雑さによって変動します)。
なお、相続登記にかかる登録免許税と、遺産の総額に対してかかる相続税はまったく別のものです。相続税がかかるかどうかや納付の手続きについては、相続税の申告と納付で詳しく解説していますので、あわせて確認しておくと安心です。
書類の多くは市区町村役場の窓口や郵送のほか、コンビニ交付やオンラインで取得できる場合もあります。とくに被相続人の戸籍は、結婚や転籍のたびに新しく作られているため、複数の役場にまたがって取り寄せる必要が出てくることも珍しくありません。時間に余裕をもって、少しずつ集めていくとよいでしょう。
相続人申告登記という簡易な方法
3年の期限内に遺産分割の話し合いがまとまらないなど、正式な相続登記が間に合わないときのために、「相続人申告登記」という新しい制度が用意されています。これは、登記簿上の名義人が亡くなったことと、自分がその相続人であることを、法務局に申し出る手続きです。
この申し出をすれば、申告をした相続人については、ひとまず相続登記の申請義務を果たしたものとして扱われます。用意する書類も比較的少なく、申し出をする相続人が自分の分だけ単独で行えるため、手続きの負担が軽いのが特徴です。ただし、相続人申告登記はあくまで「相続人であることを知らせる」簡易な報告であり、正式に不動産の名義を移す登記ではありません。そのため、その後に遺産分割が成立して不動産を取得することが決まった場合は、成立日から3年以内に、改めて正式な相続登記を申請する必要があるとされています。あくまで一時的な対応策と考えておくとよいでしょう。
自分でできる?司法書士に頼む目安
相続登記は、必ず専門家に頼まなければならないわけではなく、ご自身で申請することも可能です。相続人が少なく、遺産分割の内容もはっきりしている単純なケースであれば、法務局の相談窓口(予約制のことが多い)を利用したり、法務局のホームページにある記載例を参考にしたりしながら、自分で手続きをする方もいらっしゃいます。費用を抑えられるのがメリットです。
一方で、相続人が多い、疎遠で連絡が取りにくい親族がいる、不動産が複数の市区町村にまたがっている、何代も前の相続が手つかずのまま重なっているといった複雑なケースでは、司法書士などの専門家に依頼するほうが確実で安心です。書類の不備で何度も法務局へ足を運ぶ手間を考えると、かえって専門家に任せた方が負担が軽い場合もあります。手間・時間・正確さのバランスを考えて、無理のない方法を選びましょう。
放置するとどうなる?
相続登記をしないまま放置すると、次のような不利益が生じるおそれがあります。
- 正当な理由なく期限を過ぎると、10万円以下の過料が科される可能性があります。
- 名義が故人のままでは、その不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりできません。いざ現金が必要になったときに動けない、というリスクがあります。
- 登記をしないうちに相続人の一人が亡くなると、その方の相続人へさらに権利が引き継がれ、権利者がどんどん増えて、話し合いそのものが難しくなります。
時間がたつほど、関係する人が増えたり書類が集めにくくなったりして、手続きは複雑になりがちです。早めに動くことが、結果的にご自身とご家族の負担を軽くすることにつながります。「まだ大丈夫」と先延ばしにせず、思い立ったときに少しずつ準備を始めるのがおすすめです。
よくある質問
Q. 過去の相続も義務化の対象ですか?
はい、2024年4月1日より前に発生した相続も対象です。この場合は施行日から3年以内、原則として2027年3月31日までに登記を申請することとされています。何年も前に相続した実家などがある場合は、早めに名義を確認しておきましょう。
Q. 過料は必ず科されますか?
期限を過ぎたからといって、直ちに自動で科されるわけではありません。一般には、法務局からの催告(お知らせ)にも応じず、正当な理由なく申請しない場合に科される可能性があるとされています。とはいえ放置してよいわけではありませんので、期限を意識して早めの申請を心がけましょう。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
登録免許税として固定資産評価額の0.4%が目安です。評価額1000万円なら約4万円です。これに戸籍などの取得手数料が数千円ほどかかります。司法書士に依頼する場合は、さらに報酬6万〜10万円程度が加わるのが一般的な目安です。
Q. 相続登記は自分でできますか?
相続人が少なく、遺産分割がまとまっている単純なケースなら、ご自身で申請することも可能です。相続人が多い、古い相続が重なっているなど複雑な場合は、司法書士への相談をおすすめします。
Q. 遺言書があれば相続登記は不要ですか?
いいえ、遺言書があっても、その内容に沿って不動産の名義を変更する相続登記は必要です。遺言書があると手続きがスムーズになることが多いですが、登記そのものは省略できません。遺言書の作成については遺言書の書き方で解説しています。
相続の手続きに不安があるとき
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まとめ
2024年4月から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の登記申請が必要になりました。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科される可能性があり、過去の相続も対象です。手続きは、相続人の確定、遺産分割、必要書類の収集、法務局への申請という流れで進み、期限に間に合わないときは相続人申告登記という簡易な方法も利用できます。まずはご自宅やご実家の不動産の名義がどうなっているかを確認し、早めに準備を始めることが、ご家族の安心につながります。
※本記事は現行制度をもとにした一般的な解説であり、個別の手続きや税務・法務の詳細については、最終的な判断の前に司法書士・法務局・税理士などの専門家にご相談ください。制度の内容は今後変更される場合があります。









